大和物語166段:在中将、物見にいでて

つひにゆく 大和物語
第六部
166段
よしある車
女の衣

登場人物

 
 ♪在中将(伊勢第99段:ひをりの日。この話は伊勢物語で「中将なりける男」と明示された歌で、これが大和物語一連の在中将の話の最後であるから、大和著者は、通説通り伊勢物語を丸ごと在五日記とみなし、他人称の「中将なりける男」の話を不純物と捉えたと言えるだろう。しかし在五日記という前提が誤り)
 ♀女(これは二条の后(独自)。根拠は伊勢物語で車に乗って描かれた女性は二条の后だけであるから。類説はないと思う)

原文

 
 
 在中将、物見にいでて、女のよしある車のもとに立ちぬ。
 下簾のはさまより、この女の顔いとよく見てけり。
 ものなどいひかはしけり。
 

 これもかれもかへりて、朝によみてやりける。
 

♪277
  見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しきは
  あやなく今日や ながめ暮らさむ

 
 とあれば、女、返し、
 

♪278
  見も見ずも たれと知りてか 恋ひらるる
  おぼつかなみの 今日のながめや

 
 とぞいへりける。
 
 

 これらは物語にて、世にあることどもなり。
 
 

つひにゆく 大和物語
第六部
166段
よしある車
女の衣