大和物語165段:水尾の帝の御時、左大弁のむすめ

かざりちまき 大和物語
第六部
165段
つひにゆく
よしある車

登場人物

 
 水尾の帝
 ♀左大弁のむすめ=弁の御息所
 ♪中将(最初の歌275は伊勢物語にない。昔男の歌と抱き合わされる時点で、この業平認定もかなり疑わしい)
 ♪×在中将(著者誤認定。伊勢第125段:つひにゆく道の昔男に代入しているが、その通説自体が風説以外一切事実の裏付けがない一方的みなし認定で、昔男は二条の后に近侍し歌を提供した文屋(独自))

原文

 
 
 水尾の帝の御時、左大弁のむすめ、弁の御息所とていますかりけるを、
 帝御ぐしおろしたまうてのちに、ひとりいますかりけるを、在中将しのびて通ひけり。
 

 中将、病いとおもくしてわづらひけるを、
 もとの妻どももあり、これはいとしのびてあることなれば、
 え行きもとぶらひ給はず、しのびしのびになむ、とぶらひけること日々にありけり。
 

 さるに、とはぬ日なむありけるに、
 病もいとおもりて、その日になりにけり。
 

 中将のもとより、
 

♪275
  つれづれと いとど心の わびしきに
  けふはとはずて 暮らしてむとや

 
 とておこせたり。
 

 「よはくなりにたり」
 とて、いといたく泣きさわぎて、返りごとなどもせむとするほどに、
 「死にけり」と聞きて、いといみじかりけり。
 死なむとすること、今々となりてよみたりける。
 

♪276
  つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど
  きのふけふとは 思はざりしを

 
 と詠みてなむ絶えはてにける。
 
 

かざりちまき 大和物語
第六部
165段
つひにゆく
よしある車