水尾の帝
♀左大弁のむすめ=弁の御息所
♪中将(最初の歌275は伊勢物語にない。昔男の歌と抱き合わされる時点で、この業平認定もかなり疑わしい)
♪×在中将(著者誤認定。伊勢第125段:つひにゆく道の昔男に代入しているが、その通説自体が風説以外一切事実の裏付けがない一方的みなし認定で、昔男は二条の后に近侍し歌を提供した文屋(独自))
水尾の帝の御時、左大弁のむすめ、弁の御息所とていますかりけるを、
帝御ぐしおろしたまうてのちに、ひとりいますかりけるを、在中将しのびて通ひけり。
中将、病いとおもくしてわづらひけるを、
もとの妻どももあり、これはいとしのびてあることなれば、
え行きもとぶらひ給はず、しのびしのびになむ、とぶらひけること日々にありけり。
さるに、とはぬ日なむありけるに、
病もいとおもりて、その日になりにけり。
中将のもとより、
♪275
つれづれと いとど心の わびしきに
けふはとはずて 暮らしてむとや
とておこせたり。
「よはくなりにたり」
とて、いといたく泣きさわぎて、返りごとなどもせむとするほどに、
「死にけり」と聞きて、いといみじかりけり。
死なむとすること、今々となりてよみたりける。
♪276
つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど
きのふけふとは 思はざりしを
と詠みてなむ絶えはてにける。