大和物語161段:在中将、二条の后の宮

在中将 大和物語
第六部
161段
ひじき物
忘れ草

登場人物

 
 ♪♪×在中将(著者誤認定。伊勢物語3段:ひじき藻、76段:小塩の山の昔男に通説通り業平を代入しているが、その通説自体が風説以外一切事実の裏付けがない一方的みなし認定で、昔男は二条の后に近侍して歌を提供した文屋(独自))
 ♀二条の后の宮=春宮の女御(藤原高子)

原文

 
 
 在中将、二条の后の宮、まだ帝にもつかうまつり給はで、ただ人におはしける世に、よばひ奉りける時、
 ひじきといふ物をおこせて、かくなむ、
 

♪270
  思ひあらば むぐらの宿に 寝もしなむ
  ひじき物には 袖をしつつも

 
 となむ宣へりける。
 返しを、人なむ忘れにける。
 

 さて、后の宮、春宮の女御と聞こえて大原野にまうでたまひけり。
 御ともに上達部、殿上人、いとおほくつかうまつりけり。
 在中将もつかうまつれり。
 御車のあたりに、なま暗きをりに立てりけり。
 御社にて、おほかたの人々禄たまはりてのちなりけり。
 

 御車のしりより、奉れる御単衣の御衣をかづけさせたまへりけり。
 在中将、たまはるままに、
 

♪271
  大原や 小塩の山も 今日こそは
  神代のことを おもひいづらめ

 
 と、しのびやかにいひけり。
 

 むかしをおぼしいでて、をかしとおぼしける。
 
 

在中将 大和物語
第六部
161段
ひじき物
忘れ草