♪♀染殿の内侍 ♪能有の大臣
染殿の内侍といふ、いますかりけり。 それを能有の大臣と申すなむ、ときどきすみ給ひける。 ものをよくし給ひければ、 御衣どもをなむ、あづけさせ給ひけるに、 綾どもを、おほくつかはしたりければ、 「雲鳥の紋の綾をや、染むべき」 と聞こえたりしを、 ともかくも宣はせねば、 「えなむつかうまつらぬ。 さだめ承はらむ」 と申し奉りければ、 大臣の御返しに、
♪265 雲鳥の あやの色をも おもほえず 人をあひ見で 年の経ぬれば
となむ宣へりける。