♪おなじ帝
大納言
おなじ帝、狩いとかしこく好み給ひけり。
陸奥国、磐手の郡より奉れる御鷹、世になくかしこかりければ、になうおぼして御手鷹にし給ひけり。
名をば磐手となむつけ給へりける。
それを、かの道に心ありて、あづかりつかうまつりける大納言にあづけ給へりける。
夜昼、これをあづかりて、とりかひ給ふほどに、いかがし給ひけむ、そらし給ひてけり。
心ぎもをまどはしてもとむるに、さらにえ見いでず。
山々に人をやりつつ求めさすれど、さらになし。
みづからも深き山に入りて、まどひ歩き給へどかひもなし。
このことを奏せで、しばしもあるべけれど、二三日にあげず御覧ぜぬ日なし。
いかがせむとて、内にまゐりて、御鷹のうたせるよし奏し給ふ時に、帝、ものも宣はせず。
聞こし召しつけぬにやあらむとて、また奏し給ふに、おもてをのみまもらせ給うて、ものも宣はず。
たいだいしとおぼしたるなりけりと、われにもあらぬ心地して、かしこまりていますかりて、
「この御鷹のもとむるに侍らぬことを、いかさまにかし侍らむ。
などか仰せごとも給はぬ」
と奏し給ふ時に、帝、
♪256
いはで思ふぞ いふにまされる
と宣ひけり。
かくのみ宣はせて、こと事も宣はざりけり。
御心にいといふかひなく、惜しくおぼさるるになむありける。
これをなむ、世の中の人、もとをばとかくつけける。
もとはかくのみなむありける。