亭子の帝
♀うかれめども=うかれめばら
♪♀大江の玉淵がむすめ
南院の七郎君
亭子の帝、
鳥飼院におはしましにけり。
例のごと御遊びあり。
「このわたりのうかれめどものあまた参りて候ふ中に、
声おもしろく、よしあるものは侍りや」
と問はせ給ふに、
うかれめばらの申すやう、
「大江の玉淵がむすめといふものなむ、めづらしうまゐりて侍る」
と申しければ、みさせ給ふに、
様かたちもきよげなりければ、
あはれがりたまうて、上にめしあげ給ふ。
「そもそもまことか」など問はせ給ふに、
鳥飼といふ題を、みなみな人々に詠ませ給ひにけり。
仰せ給ふやう、
「玉淵はいと労ありて、歌などよく詠みき。
この鳥飼といふ題をよくつかまつりたらむにしたがひて、
まことの子とは思ほさむ」
と仰せ給ひけり。
うけたまはりて、すなはち、
♪236
あさみどり かひある春に あひぬれば
霞ならねど 立ちのぼりけり
と詠む時に、
帝、ののしりあはれがり給ひて、御しほたれ給ふ。
人々もよく酔ひたるほどにて、酔ひ泣きいとになくす。
帝、御袿ひとかさね、袴賜ふ。
「ありとある上達部、御子たち、四位五位、
これに物脱ぎて取らせざらむ者は、座より立ちね」
と宣ひければ、
片端より、上下みなかづけたれば、
かづきあまりて、二間ばかり積みてぞ置きたりける。
かくて帰り給ふとて、
南院の七郎君といふ人ありけり。
それなむ、このうかれめの住むあたりに、家つくりて住むと聞こしめして、
それになむ、宣ひあづけける。
「かれが申さむこと、院に奏せよ。
院より賜はせむ物も、かの七郎君がりつかはさむ。
すべてかれにわびしきめ、な見せそ」
と仰せ給うければ、
常になむ、とぶらひかへりみける。