大和物語145段:亭子の帝、河尻におはしまし

甲斐の国 大和物語
第五部
145段
浜千鳥
玉淵がむすめ

登場人物

 
 亭子の帝
 ♪♪♀うかれめ=しろ

原文

 
 
 亭子の帝、
 河尻におはしましにけり。
 

 うかれめに、しろといふ者ありけり。
 召しにつかはしたりければ、まゐりてさぶらふ。
 上達部、殿上人、みこたち、あまたさぶらひ給ひければ、
 しもに遠くさぶらふ。
 

 「かくはるかにさぶらふよし、歌つかまつれ」
 とおほせられければ、
 
 すなはちよみ奉りける。
 

♪234
  浜千鳥 とびゆくかぎり ありければ
  雲立つ山を あはとこそ見れ

 
 と詠みたりければ、
 いとかしこくめで給ひて、かづけ物給ふ。
 

♪235
  命だに 心にかなふ ものならば
  なにかわかれの 悲しからまし

 
 といふ歌も、
 この、しろがよみたる歌なりけり。
 
 

甲斐の国 大和物語
第五部
145段
浜千鳥
玉淵がむすめ