♪♪♪♀御息所の御姉おほいこ
♀おとうとたち御息所
♀女親
♀まま母
親
御息所の御姉、おほいこにあたり給ひけるなむ、
いとらうらうじく、歌詠み給ふことも、
おとうとたち御息所よりもまさりてなむ、いますかりける。
わかき時に、女親は失せ給ひにけり。
まま母の手にいますかりければ、心に、もののかなはぬ時もあり。
さて詠み給ひける。
♪227
ありはてぬ 命待つまの ほどばかり
憂きことしげく 嘆かずもがな
となむ詠み給ひける。
梅の花を折りてまた、
♪228
かかる香の 秋もはからず にほひせば
春恋してふ ながめせましや
と詠み給へりける。
いとよしづきて、をかしくいますかりければ、
よばふ人もいとおほかりけれど、返りごともせざりけり。
「女といふもの、つひにかくて果て給ふべきにもあらず。
ときどきは返りごとし給へ」
と、親もまま母もいひければ、
せめられて、かくなむいひやりける。
♪229
思へども かひなかるべみ しのぶれば
つれなきともや 人の見るらむ
とばかりいひやりて、ものもいはざりけり。
かくいひける心ばへは、
親など、「男あはせむ」といひけれど、
「一生に男せでやみなむ」といふことを、
よとともにいひけるもしるく、
男もせで二十九にてなむ、失せ給ひにける。