大和物語140段:故兵部卿宮、のぼるの大納言の

あくた川 大和物語
第五部
140段
草枕
思はぬ山

登場人物

 
 ♪♪故兵部卿宮
 ♪♪♀のぼるの大納言のむすめ

原文

 
 
 故兵部卿宮、
 のぼるの大納言のむすめに住み給ひけるを、
 例のおはしまし所にはあらで、
 ひさしにおまし敷きて、おほとのごもりなどして、
 かへり給ひて、ほど久しう、おはしまさざりけり。
 
 かくてのたまへりける、
 「かのひさしにしかれたりしものは、さながらありや。
 とりたてやし給ひてし」
 とのたまへりければ、
 

 御返事に、
 
♪219
  敷きかへず ありしながらに 草枕
  塵のみぞゐる 払ふ人なみ
 
 とありければ、
 

 御返しに、


♪220
  草枕 塵払ひには からころも
  袂ゆたかに たつを待てかし
 
 とありければ、
 

 また、


♪221
  唐衣 たつを待つ 間のほどこそは
  わがしきたへの 塵も積らめ
 
 となんありければ、おはしまして、

 また「宇治へ狩りしになん行く」とのたまひける
 御返しに、


♪222
  御狩する くりこま山の 鹿よりも
  ひとり寝る身(夜)ぞ わびしかりける

 
 

あくた川 大和物語
第五部
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草枕
思はぬ山