♪♪故兵部卿宮
♪♪♀のぼるの大納言のむすめ
故兵部卿宮、
のぼるの大納言のむすめに住み給ひけるを、
例のおはしまし所にはあらで、
ひさしにおまし敷きて、おほとのごもりなどして、
かへり給ひて、ほど久しう、おはしまさざりけり。
かくてのたまへりける、
「かのひさしにしかれたりしものは、さながらありや。
とりたてやし給ひてし」
とのたまへりければ、
御返事に、
♪219
敷きかへず ありしながらに 草枕
塵のみぞゐる 払ふ人なみ
とありければ、
御返しに、
♪220
草枕 塵払ひには からころも
袂ゆたかに たつを待てかし
とありければ、
また、
♪221
唐衣 たつを待つ 間のほどこそは
わがしきたへの 塵も積らめ
となんありければ、おはしまして、
また「宇治へ狩りしになん行く」とのたまひける
御返しに、
♪222
御狩する くりこま山の 鹿よりも
ひとり寝る身(夜)ぞ わびしかりける