故兵部卿の宮 ♪♀としこ
志賀の山越えの道に、いはえといふ所に、 故兵部卿の宮、 家をいとをかしうつくり給うて、ときどきおはしましけり。 いとしのびておはしまして、 志賀にまうづる女どもを見給ふときもありけり。 おほかたも、いとおもしろう、家もいとをかしうなむありける。
としこ、 志賀にまうでけるついでに、 この家に来て、めぐりつつ見て、あはれがりめでなどして、 書きつけたりける。
♪214 かりにのみ 来る君待つと ふりいでつつ 鳴くしが山は 秋ぞ悲しき
となむ、書きつけていにける。