大和物語134段:先帝の御時に、ある御曹司に

泣くを見るこそ 大和物語
第五部
134段
童の心地
くゆる心

登場人物

 
 ♪先帝
 ♀きたなげなき童
 ♀この主なる御息所

原文

 
 
 先帝の御時に、
 ある御曹司に、きたなげなき童ありけり。
 
 帝御覧じて、みそかに召してけり。
 これを人にも知らせ給はで、時々召しけり。
 

 さて、宣はせける。
 

♪211
  あかでのみ 経ればなるべし あはぬ夜も
  あふ夜も人を あはれとぞ思ふ

 
 と宣はせけるを、
 童の心地にも、かぎりなくあはれにおぼえければ、
 しのびあへで友だちに、「さなむ宣ひし」と語りければ、
 この主なる御息所聞きて、
 追ひいで給ひけるものか、いみじう。
 
 

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