大和物語133段:おなじ帝、月のおもしろき夜

躬恒 大和物語
第五部
133段
泣くを見るこそ
童の心地

登場人物

 
 おなじ帝
 ♀女
 ♪公忠

原文

 
 
 おなじ帝、
 月のおもしろき夜、みそかに御息所たちの御曹司どもを見歩かせ給ひけり。
 御ともに公忠さぶらひけり。
 
 それに、ある御曹司より、
 こき袿ひとかさね着たる女の、いと清げなる、いで来て、いみじう泣きけり。
 公忠をちかく召して、見せ給ひければ、髪をふりおほひていみじう泣く。
 「などてかく泣くぞ」といへど、いらへもせず。
 帝も、いみじうあやしがり給ひけり。
 

 公忠、
 

♪210
  思ふらむ 心のうちは 知らねども
  泣くを見るこそ 悲しかりけれ

 
 とよめりければ、
 いとになくめで給ひけり。
 
 

躬恒 大和物語
第五部
133段
泣くを見るこそ
童の心地