おなじ帝 ♀女 ♪公忠
おなじ帝、 月のおもしろき夜、みそかに御息所たちの御曹司どもを見歩かせ給ひけり。 御ともに公忠さぶらひけり。 それに、ある御曹司より、 こき袿ひとかさね着たる女の、いと清げなる、いで来て、いみじう泣きけり。 公忠をちかく召して、見せ給ひければ、髪をふりおほひていみじう泣く。 「などてかく泣くぞ」といへど、いらへもせず。 帝も、いみじうあやしがり給ひけり。
公忠、
♪210 思ふらむ 心のうちは 知らねども 泣くを見るこそ 悲しかりけれ
とよめりければ、 いとになくめで給ひけり。