泉の大将
故左大臣=あるじの大臣
♪♪壬生忠岑:三十六歌仙:古今集編纂者:百人一首30歌人
♀忠岑がむすめ
ある人=男
泉の大将、故左大臣にまうで給へりけり。
ほかにて酒などまゐり、酔ひて、
夜いたくふけて、ゆくりもなく、ものし給へり。
大臣おどろき給ひて、
「いづくにものし給へる、たよりにかあらむ」
など聞こえ給ひて、御格子あげさわぐに、
壬生忠岑、御ともにあり。
御階のもとに、松ともしながらひざまづきて、
御消息申す。「
♪200
かささぎの わたせる橋の 霜の上を
夜半にふみわけ ことさらにこそ
となむ宣ふ」と申す。
あるじの大臣、
いとあはれにをかしとおぼして、
その夜、夜ひと夜、大御酒まゐり、遊び給ひて、
大将も物かづき、忠岑も禄賜りなどしけり。
この忠岑がむすめありと聞きて、
ある人なむ、「得む」といひけるを、
「いとよきことなり」といひけり。
男のもとより、
「かの頼め給ひしこと、このごろのほどにとなむ思ふ」
といへりける返りごとに、
♪201
わが宿の ひとむらすすき うら若み
むすび時にには まだしかりけり
となむ詠みたりける。
まことにまだ、いとちひさきむすめになるありける。