大和物語125段:泉の大将、故左大臣に

宿世も知らず 大和物語
第五部
125段
壬生忠岑
檜垣の御

登場人物

 
 泉の大将
 故左大臣=あるじの大臣
 ♪♪壬生忠岑:三十六歌仙:古今集編纂者:百人一首30歌人
 ♀忠岑がむすめ
 ある人=男

原文

 
 
 泉の大将、故左大臣にまうで給へりけり。
 ほかにて酒などまゐり、酔ひて、
 夜いたくふけて、ゆくりもなく、ものし給へり。
 
 大臣おどろき給ひて、
 「いづくにものし給へる、たよりにかあらむ」
 など聞こえ給ひて、御格子あげさわぐに、
 壬生忠岑、御ともにあり。
 
 御階のもとに、松ともしながらひざまづきて、
 御消息申す。「
 

♪200
  かささぎの わたせる橋の 霜の上を
  夜半にふみわけ ことさらにこそ

 
 となむ宣ふ」と申す。
 

 あるじの大臣、
 いとあはれにをかしとおぼして、
 その夜、夜ひと夜、大御酒まゐり、遊び給ひて、
 大将も物かづき、忠岑も禄賜りなどしけり。
 

 この忠岑がむすめありと聞きて、
 ある人なむ、「得む」といひけるを、
 「いとよきことなり」といひけり。
 

 男のもとより、
 「かの頼め給ひしこと、このごろのほどにとなむ思ふ」
 といへりける返りごとに、
 

♪201
  わが宿の ひとむらすすき うら若み
  むすび時にには まだしかりけり

 
 となむ詠みたりける。
 
 まことにまだ、いとちひさきむすめになるありける。
 
 


  

宿世も知らず 大和物語
第五部
125段
壬生忠岑
檜垣の御