大和物語122段:としこが志賀にまうでたりけるに

笛竹 大和物語
第五部
122段
増喜君
つゆの身

登場人物

 
 ♪♀としこ
 ♪増喜君といふ法師

原文

 
 
 としこが、志賀にまうでたりけるに、
 増喜君といふ法師ありけり。
 それは比叡に住む、院の殿上もする法師になむありける。
 
 それ、このとしこまうでたる日、志賀にまうであひにけり。
 橋殿に局をしてゐて、よろづのことをいひかはしけり。
 

 いまは、としこ、かへりなむとしけり。
 それに、増喜のもとより、
 

♪195
  あひ見ては わかるることの なかりせば
  かつがつものは 思はざらまし

 

 返し、としこ、
 

♪196
  いかなれば かつがつものを 思ふらむ
  なごりもなくぞ われは悲しき

 
 となむありける。
 ことばも、いとおほくなむありける。
 
 

笛竹 大和物語
第五部
122段
増喜君
つゆの身