♪おほきおとど
枇杷の大臣
♪♀斎宮
♪♀三条の右の大殿(藤原定方:百人一首25歌人)の女御
おほきおとどは、大臣になり給ひて年ごろはするに、
枇杷の大臣は、えたり給はでありわたりけるを、つひに大臣になり給ひにける御よろこびに、
おほきおとど、梅を折りてかざし給ひて、
♪190
おそくとく つひに咲きける 梅の花
たが植ゑおきし 種にかあるらむ
とありけり。
その日のことどもを歌など書きて、斎宮に奉り給ふとて、
三条の右の大殿の女御、やがてこれに書きつけ給ひける。
♪191
いかでかく 年きりもせぬ 種もがな
荒れゆく庭の かげと頼まむ
とありけり。
御返し、斎宮よりありけり。
忘れにけり。
かくて願ひ給ひけるかひありて、左大臣の中納言わたりすみ給ひければ、
種みな広ごり給ひて、かげおほくなりにけり。
さりける時に、斎宮より、
♪192
花ざかり 春は見に来む 年きりも
せずといふ種は 生ひぬとか聞く