大和物語120段:おほきおとどは、大臣になり

ほかの声 大和物語
第五部
120段
植ゑおきし種
笛竹

登場人物

 
 ♪おほきおとど
 枇杷の大臣
 ♪♀斎宮
 ♪♀三条の右の大殿(藤原定方:百人一首25歌人)の女御

原文

 
 
 おほきおとどは、大臣になり給ひて年ごろはするに、
 枇杷の大臣は、えたり給はでありわたりけるを、つひに大臣になり給ひにける御よろこびに、
 おほきおとど、梅を折りてかざし給ひて、
 

♪190
  おそくとく つひに咲きける 梅の花
  たが植ゑおきし 種にかあるらむ

 
 とありけり。
 
 その日のことどもを歌など書きて、斎宮に奉り給ふとて、
 三条の右の大殿の女御、やがてこれに書きつけ給ひける。
 

♪191
  いかでかく 年きりもせぬ 種もがな
  荒れゆく庭の かげと頼まむ

 
 とありけり。
 

 御返し、斎宮よりありけり。
 忘れにけり。
 

 かくて願ひ給ひけるかひありて、左大臣の中納言わたりすみ給ひければ、
 種みな広ごり給ひて、かげおほくなりにけり。
 

 さりける時に、斎宮より、
 

♪192
  花ざかり 春は見に来む 年きりも
  せずといふ種は 生ひぬとか聞く

 
 

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