大和物語43段:この大徳、房にしける所の前に

恵秀 大和物語
第二部
43段
横川
ぬれごろも

登場人物

 
 ♪♪この大徳(42段:ゑしうといふ法師。未詳。恵秀・延昌)

原文

 
 
 この大徳、
 房にしける所の前に切懸をなむせさせける。
 

 このけづりくづに書きつけける。
 

♪57
  まがきする ひだのたくみの たつき音の
  あなかしがまし なぞや世の中

 

 などいひて、
 「行ひしに深き山に入りなむとす」
 といひて、いにけり。
 

 ほど経て、
 「いづくにかあらむとて、深き山にこもり給ひぬとありしは、いづくぞ」
 といひやり給ひたりければ、
 

♪58
  なにばかり 深くもあらず 世の常の
  比叡の外山と 見るばかりなり

 
 となむいひたりける。
 

 横川といふ所にあるなりけり。
 
 

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