♪源大納言の君(源清蔭)
♀としこ(俊子:後撰集、承香殿俊子:拾遺集)
源大納言の君の御もとに、としこはつねにまゐりけり。
曹司してすむ時もありけり。
をかしき人にて、よろづのことをつねにいひかはし給ひけり。
つれづれなる日、
このおとど、
としこ、
またこのむすめ、姉にあたる、あやつこといひてありけり。母に似て、心もをかしかりけり。
また、このおとどのもとに、よぶこといふ人ありけり。それももののあはれ知りて、いと心をかしき人なりけり。
これ四人つどひて、
よろづの物語し、世の中のはかなきこと、世間のことあはれなるいひいひて、
かのおとどの詠み給ひける。
♪54
いひつつも 世ははかなきを かたみには
あはれといかで 君に見えまし
と詠み給ひければ、
たれもたれも、返しはせで、集まりてよよとなむ泣きける。
あやしかりけるものどもにこそはありけれ。