♪♪♪♪南院の五郎・三河守
(旧体系:不明
全集:光孝皇子是忠五男・今扶
全訳注:源宗于:三十六歌仙:百人一首28歌人は三河守だが非五男。今扶は記録により六男)
♀承香殿にありける伊予の御(未詳)
南院の五郎、三河守にてありける、
承香殿にありける伊予の御を懸想しけり。
「来む」といひければ、
「御息所の御もとに、内へなむまゐる」
といひおこせたりければ、
♪91
玉だれの 内とかくるは いとどしく
かげを見せじと 思ふなりけり
といへりけり。
また、
♪92
嘆きのみ しげきみ山の ほととぎす
木がくれゐても 音をのみぞなく
などいひけり。
かくて来たりけるを、
「いまはかへりね」とやらひければ、
♪93
死ねとてや とりもあへずは やらはるる
いといきがたき 心地こそすれ
返し、
をかしかりけれど、え聞かず。
また、雪の降る夜来たりけるを、ものはいひて、
「夜ふけぬ。かへり給ひね」
といひければ、
かへりけるほどに、
雪のいみじき降りければ、えいかでかへりけるほどに、
戸をさしてあけざりければ、
♪94
われはさは 雪降る空に 消えねとや
たちかへれども あけぬ板戸は
となむいひてゐたりける。
「かく歌もよみ、あはれにいひゐたれば、
いかにせましと思ひて、のぞきて見れば、
顔こそなほ、いとにくげなりしか」
となむ語りしとか。