亭子院(宇多天皇と居所)
♪♀御息所たち(不明)
♀京極の御息所(藤原褒子)
♪殿上人=男ども
亭子院に、御息所たちあまた御曹司してすみ給ふに、
年ごろありて、河原院のいとおもしろくつくられたりけるに、
京極の御息所、ひと所の御曹司をのみしてわたらせ給ひにけり。
春のことなりけり。
とまり給へる御曹司ども、
いと思ひのほかに、さうざうしきことをおもほしけり。
殿上人など通ひまゐりて、
藤の花いとおもしろきを、これかれ、「さかりをだに御覧ぜで」などいひて見歩くに、
文をなむ結びつけたりける。
あけてみれば、
♪85
世の中の あさき瀬に のみなりゆけば
昨日のふぢの 花とこそ見れ
とありければ、
人々見て、かぎりなくめであはればりけれど、
たが御曹司のし給へるとも、え知らざりける。
男どものいひける
♪86
藤の花 色のあさくも 見ゆるかな
うつろひにける 名残なるべし