大和物語8段:監の命婦の許に

今は限りと 大和物語
第一部
8段
ひと夜めぐり
桃園兵部卿宮

登場人物

 
 ♪♪♀監の命婦(諸説あり)
 中務の宮(醍醐天皇皇子式明親王:旧大系・新全集、式明ではなく監の命婦との関係から(?)醍醐皇子重明親王:全訳注。しかし文面上論理が曖昧)

原文

 
 
 監の命婦の許に、
 中務の宮おはしまし通ひけるを、
 「方のふたがれば、今宵はえなむまうでぬ」
 と宣へりければ、
 
 その御返り事に、
 

♪11
  逢ふことの 方はさのみぞ ふたがらむ
  ひと夜めぐりの 君と思へば

 
 とありければ、
 方ふたがりたりけれど、おはしましてなむ、大殿籠りにける。
 
 かくてまた、久しく音もし給はざりけるに、
 「嵯峨の院に狩すとてなむ、久しう消息などもものせざりける。
 いかにおぼつかなく思ひつらむ」
 など宣へりける御返り事に、
 

♪12
  大澤の 池の水くき 絶えぬとも
  なにか恨みむ さがのつらさは

 
 御返しは、これにやおとりけむ、人忘れにけり。
 
 

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桃園兵部卿宮