大和物語4段:野大弐、純友が騒ぎの時

としこ 大和物語
第一部
4段
玉くしげ
前坊の君

登場人物

 
 野大弐(小野好古)
 ♪近江守 公忠の君(源公忠)

原文

 
 
 野大弐、
 純友が騒ぎの時、討手の使にさされて、少将にて下りけり。
 

 公にも仕うまつる、四位にもなりぬべき年に当たりければ、
 正月の加階賜りの事、いとゆかしうおぼえけれど、京より下る人もをさをさ聞こえず。
 

 ある人に問へば、「四位になりたり」ともいふ。
 ある人は「さもあらず」といふ。
 

 定かなる事いかで聞かむと思ふほどに、
 京に便りあるに、近江守公忠の君の文をなむ持て来たる。
 いとゆかしう嬉しうて、あけて見れば、
 よろづの事ども書きもていきて、月日など書きて、
 
 奧の方にかくなむ、
 

♪7
  玉くしげ ふたとせ逢はぬ 君が身を
  あけながらやは あらむと思ひし

 

 これを見てなむ、限りなく悲しくてなむ泣きける。
 

 四位にならぬよし、文の詞にはなくて、ただかくなむありける。
 
 

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