♪故源大納言(源清蔭)
♀京極御息所(藤原褒子)
♪♪♀としこ(俊子:後撰集2首、承香殿俊子:拾遺集)
故源大納言、宰相におはしける時、
京極御息所、亭子院の御賀つかうまつり給ふとて、
「かかる事なむせむと思ふ。
捧げ物、一枝二枝せさせて賜へ」
と聞こえ給ひければ、
鬚籠をあまたせさせ給うて、
としこに色々に染めさせ給ひけり。
敷物の織物ども、色々に染め、より、組み、
何かと皆預けてせさせ給ひけり。
その物どもを、九月つごもりに、皆いそぎはててけり。
さて、その十月ついたちの日、
この物いそぎ給ひける人の許に、おこせたりける、
♪4
千々の色に いそぎし秋は 過ぎにけり
今は時雨に 何を染めまし
その物急ぎ給ひける時は、
まもなく、これよりも彼よりも言ひかはし給ひけるを、
それより後は、その事とやなかりけむ、
消息もいはで、十二月つごもりになりにければ、
としこ、
♪5
かたかけの 舟にや乗れる 白浪の
さわぐ時のみ 思ひ出づる君
となむいへりけるを、
その返しをもせで、年越えにけり。
さて、二月ばかりに、
柳のしなひ、物よりけに長きなむ、この家にありけるを折りて、
♪6
青柳の 糸うちはへて のどかなる
春日しもこそ 思ひ出でけれ
とてなむ、遣り給へりければ、
いと二なくめでて、後までなむ語りける。