大和物語1段:亭子の帝、今はおりゐさせ給ひなむ

大和物語 大和物語
第一部
1段
弘徽殿の壁
橘良利

登場人物

 
 ♪亭子の帝(宇多天皇)
 ♪♀伊勢の御(宇多天皇の御息所。古今集22首で女性筆頭歌人。三十六歌仙:百人一首19歌人。初期女性歌人最重要人物。先行の小町は文屋とセットで実質単体ではないため)

原文

 
 
 亭子の帝、今はおりゐさせ給ひなむとするころ、
 弘徽殿の壁に、伊勢の御の書きつけける、
 

♪1
  別るれど あひもをしまぬ ももしきを
  見ざらむことの なにか悲しき

 
 とありければ、
 

 帝、御覧じて、
 そのかたはらに書きつけさせたまうける。
 

♪2
  身一つに あらぬばかりを おしなべて
  行きめぐりても などか見ざらむ

 
 となむありける。
 
 

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1段
弘徽殿の壁
橘良利