大和物語170段:伊衡の宰相、中将にものし給ひ

井手 大和物語
末尾部
170段
伊衡の宰相
大和

登場人物

 
 ♪伊衡の宰相=中将=故式部卿の宮の別当
 ♪♀兵衛の命婦

原文

 
 
 伊衡の宰相、中将にものし給ひける時、
 故式部卿の宮の別当し給ひければ、常にまゐりなれば、
 御たちも語らひ給ひける。
 

 その君、内よりまかで給ひけるままに、
 風になむあひ給うて、わづらひ給ひける。
 とぶらひに、薬の酒、肴など調じて、
 兵衛の命婦なむ、やり給ひける。
 

 その返りごとに、
 「いとうれしう、とひ給へること。
 あさましう、かかる病も、つくものになむありける」
 とて、
 

♪287
  青柳の 糸ならねども 春風の
  吹けばかたよる わが身なりけり

 
 とあれば、
 

 兵衛の命婦、返し、
 

♪288
  いささめに 吹く風にやは なびくべき
  野分すぐしし 君にやはあらぬ

 
 

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伊衡の宰相
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