♪伊衡の宰相=中将=故式部卿の宮の別当
♪♀兵衛の命婦
伊衡の宰相、中将にものし給ひける時、
故式部卿の宮の別当し給ひければ、常にまゐりなれば、
御たちも語らひ給ひける。
その君、内よりまかで給ひけるままに、
風になむあひ給うて、わづらひ給ひける。
とぶらひに、薬の酒、肴など調じて、
兵衛の命婦なむ、やり給ひける。
その返りごとに、
「いとうれしう、とひ給へること。
あさましう、かかる病も、つくものになむありける」
とて、
♪287
青柳の 糸ならねども 春風の
吹けばかたよる わが身なりけり
とあれば、
兵衛の命婦、返し、
♪288
いささめに 吹く風にやは なびくべき
野分すぐしし 君にやはあらぬ