古今和歌集 巻末 墨滅歌:歌の配置・コメント付

巻二十
大歌所歌
古今和歌集
巻末
墨滅歌
   
目次
1101
篤行
1102
勝臣
1103
貫之
1104
小町
1105
あや
1106
不知
1107
不知
1108
不知※
1109
采女
1110
衣通
1111
貫之
 
 

※古今集の墨滅歌とは、古写本では墨で消してあり、流布本では巻末にあるもの。
 1105の「あや」はあやもち。何者か不明。
 「采女」はあふみのうねめ。同じく不明(名もなき女官)。
 全体1111首中の11首という歌数から、貫之の純粋な私見認定・選定と解する(だから貫之以外は、いずれも古今世代以前の人物で、詳細不明な人達ばかり)。

 衣通姫(衣を通して光が出たという女性)という古事記下巻に記される人物を小町と合わせ入れていることからもそう言える。「をのゝこまちは、いにしへのそとほりひめのりうなり」(仮名序)。このいにしへは、一つに古事記のこと。
 「采女」(ウメネ)も同じく古事記の下巻最後の歌に神に陳情する三重の采女(伊勢の巫女)がいる。
 この采女直前の1108の不知※「あめのみかと」は天帝=天之御中主神=最高神。竹取よろしく神に矢を射ようとしひざまずかされた帝を記した古事記に比し、日本書紀では神との仲良し狩りエピソードとして真逆に丸められているので、日本書紀を意識しているのではない。また日本書紀では古事記最初の天之御中主神の部分でそこだけ諸説を乱立させ一説扱いにし意図的に特別扱いしていない。

 1104に小町とあるがこれは伊勢115段(都島)の歌で、14~15段の陸奥の女を受けた内容で陸奥の女の話。物語構成上、小町の歌ではない。しかしここでの小町は衣通姫とセットにする意味があるだろう。
 加えて、1104の詞書は伊勢各話の呼称を示している。このような呼称は他に収録された伊勢の歌では存在しない。


 

墨滅歌

   
異本所載歌
   
   1101
詞書 ひくらし/物名部:在郭公下、空蝉上
作者 平あつゆき(平篤行)
原文 そま人は 宮木ひくらし あしひきの
 山の山ひこよ ひとよむなり
かな そまひとは みやきひくらし あしひきの
 やまのやまひこ よひとよむなり
   
  1102
詞書 をかたまの木
/物名部:をかたまの木、友則下
作者 勝臣(藤原勝臣)
原文 かけりても なにをかたまの きても見む
 からはほのほと なりにしものを
かな かけりても なにをかたまの きてもみむ
 からはほのほと なりにしものを
   
  1103
詞書 くれのおも/物名部:忍草、利貞下
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 こし時と こひつつをれは ゆふくれの
 おもかけにのみ 見えわたるかな
かな こしときと こひつつをれは ゆふくれの
 おもかけにのみ みえわたるかな
   
  1104
詞書 おきのゐ、みやこしま
/物名部:からこと、清行下
作者 をののこまち(小野小町)
原文 おきのゐて 身をやくよりも かなしきは
 宮こしまへの わかれなりけり
かな おきのゐて みをやくよりも かなしきは
 みやこしまへの わかれなりけり
コメ 出典:伊勢115段(都島・おきの井)。
「むかし、みちの国にて、男女すみけり。
男、「都へいなむ」といふ。
この女いと悲しうて、
馬のはなむけをだにせむとて、おきのゐて
都島といふ所にて酒飲ませてよめる。
『おきのゐて 身を焼くよりも 悲しきは
 都のしまべの 別れなりけり』」
   
  1105
詞書 そめとの、あはた
/このうた、水の尾のみかとのそめとのよりあはたへうつりたまうける時によめる
/物名部:桂宮下
作者 あやもち(不明)
原文 うきめをは よそめとのみそ のかれゆく
 雲のあはたつ 山のふもとに
かな うきめをは よそめとのみそ のかれゆく
 くものあはたつ やまのふもとに
   
  1106
詞書 題しらす
/巻第十一:奥山の春の根しのきふる雪下
作者 よみ人しらす
原文 けふ人を こふる心は 大井河
 なかるる水に おとらさりけり
かな けふひとを こふるこころは おほゐかは
 なかるるみつに おとらさりけり
   
  1107
詞書 題しらす
/巻第十一:奥山の春の根しのきふる雪下
作者 よみ人しらす
原文 わきもこに あふさか山の しのすすき
 ほにはいてすも こひわたるかな
かな わきもこに あふさかやまの しのすすき
 ほにはいてすも こひわたるかな
   
  1108
詞書 題しらす
/この歌、ある人、あめのみかとの
あふみのうねめにたまへると
/巻第十三:こひしくはしたにを思へ紫の下
作者 よみ人しらす(一説、あめのみかと)
原文 いぬかみの とこの山なる なとり河
 いさとこたへよ わかなもらすな
かな いぬかみの とこのやまなる なとりかは
 いさとこたへよ わかなもらすな
   
  1109
詞書 返し:うねめのたてまつれる
/巻第十三:こひしくはしたにを思へ紫の下
作者 あふみのうねめ(近江采女?詳細不明)
原文 山しなの おとはのたきの おとにのみ
 人のしるへく わかこひめやも
かな やましなの おとはのたきの おとにのみ
 ひとのしるへく わかこひめやも
   
  1110
詞書 そとほりひめのひとりゐて
みかとをこひたてまつりて
/巻第十四:思ふてふことのはのみや秋をへて下
作者 そとほりひめ(衣通姫)
原文 わかせこか くへきよひなり ささかにの
 くものふるまひ かねてしるしも
かな わかせこか くへきよひなり ささかにの
 くものふるまひ かねてしるしも
   
  1111
詞書 題しらす/巻第十四:深養父、
こひしとはたかなつけけむことならむ下
作者 つらゆき(紀貫之)
原文 みちしらは つみにもゆかむ すみのえの
 岸におふてふ こひわすれくさ
かな みちしらは つみにもゆかむ すみのえの
 きしにおふてふ こひわすれくさ