目次(配置) | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 元方 |
2 貫之 |
3 不知 |
4 高子 |
5 不知 |
6 素性 |
7 不知 |
8 文屋 |
9 貫之 |
10 言直 |
11 忠岑 |
12 当純 |
13 友則 |
14 千里 |
15 棟梁 |
16 不知 |
17 不知 |
18 不知 |
19 不知 |
20 不知 |
21 仁和 |
22 貫之 |
23 行平 |
24 宗于 |
25 貫之 |
26 貫之 |
27 遍昭 |
28 不知 |
29 不知 |
30 躬恒 |
31 伊勢 |
32 不知 |
33 不知 |
34 不知 |
35 不知 |
36 源常 |
37 素性 |
38 友則 |
39 貫之 |
40 躬恒 |
41 躬恒 |
42 貫之 |
43 伊勢 |
44 伊勢 |
45 貫之 |
46 不知 |
47 素性 |
48 不知 |
49 貫之 |
50 不知 |
51 不知 |
52 先太 |
53 業× |
54 不知 |
55 素性 |
56 素性 |
57 友則 |
58 貫之 |
59 貫之 |
60 友則 |
61 伊勢 |
62 不知 |
63 業× |
64 不知 |
65 不知 |
66 有友 |
67 躬恒 |
68 伊勢 |
||
※古今で伊勢物語の歌が圧倒的な詞書の長さを誇りながら(上位10首中6首)、先頭を在原の業平ではなく、ほぼ無名の孫の元方にしたのは業平否定の意味。それが2の貫之の意志。というのも、巻先頭連続は文屋・小町・敏行(秋下・恋二・物名)の三者のみ、業平は恋三でこの敏行により連続を崩されているからである。敏行は業平の義弟で世間的に明確に格下。この分野選定と配置は偶然ではありえない。先頭にはそれだけの意味があり、かつ全体を象徴している。 |
0001 | |
---|---|
詞書 | ふるとしに春たちける日よめる |
作者 | 在原元方 |
原文 |
としのうちに 春はきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ |
かな |
としのうちに はるはきにけり ひととせを こそとやいはむ ことしとやいはむ |
0002 | |
詞書 | はるたちける日よめる |
作者 | 紀貫之 |
原文 |
袖ひちて むすひし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ |
かな |
そてひちて むすひしみつの こほれるを はるたつけふの かせやとくらむ |
0003 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
春霞 たてるやいつこ みよしのの よしのの山に 雪はふりつつ |
かな |
はるかすみ たてるやいつこ みよしのの よしののやまに ゆきはふりつつ |
0004 | |
詞書 | 二条のきさきのはるのはしめの御うた |
作者 | 二条のきさき(藤原高子) |
原文 |
雪の内に 春はきにけり うくひすの こほれる涙 今やとくらむ |
かな |
ゆきのうちに はるはきにけり うくひすの こほれるなみた いまやとくらむ |
0005 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
梅かえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた 雪はふりつつ |
かな |
うめかえに きゐるうくひす はるかけて なけともいまた ゆきはふりつつ |
0006 | |
詞書 | 雪の木にふりかかれるをよめる |
作者 | 素性法師 |
原文 |
春たては 花とや見らむ 白雪の かかれる枝に うくひすそなく |
かな |
はるたては はなとやみらむ しらゆきの かかれるえたに うくひすそなく |
0007 | |
詞書 |
題しらす/ある人のいはく、 さきのおほきおほいまうちきみの歌なり |
作者 |
よみ人しらす (一説、さきのおほきおほいまうちきみ) |
原文 |
心さし ふかくそめてし 折りけれは きえあへぬ雪の 花と見ゆらむ |
かな |
こころさし ふかくそめてし をりけれは きえあへぬゆきの はなとみゆらむ |
0008 | |
詞書 |
二条のきさきのとう宮のみやすんところときこえける時、 正月三日おまへにめして おほせことあるあひたに、 日はてりながら雪のかしらにふりかかりけるをよませ給ひける |
作者 | 文屋やすひて(文屋康秀) |
原文 |
春の日の ひかりにあたる 我なれと かしらの雪と なるそわひしき |
かな |
はるのひの ひかりにあたる われなれと かしらのゆきと なるそわひしき |
コメ |
「二条のきさき」は伊勢物語の最大の象徴的な言葉。そこには「二条の后に仕うまつる男」とある(伊勢95段・彦星)。 |
0009 | |
詞書 | ゆきのふりけるをよめる |
作者 | きのつらゆき(紀貫之) |
原文 |
霞たち このめもはるの 雪ふれは 花なきさとも 花そちりける |
かな |
かすみたち このめもはるの ゆきふれは はななきさとも はなそちりける |
0010 | |
詞書 | 春のはしめによめる |
作者 | ふちはらのことなほ(藤原言直) |
原文 |
はるやとき 花やおそきと ききわかむ 鶯たにも なかすもあるかな |
かな |
はるやとき はなやおそきと ききわかむ うくひすたにも なかすもあるかな |
0011 | |
詞書 | はるのはしめのうた |
作者 | みふのたたみね(壬生忠岑) |
原文 |
春きぬと 人はいへとも うくひすの なかぬかきりは あらしとそ思ふ |
かな |
はるきぬと ひとはいへとも うくひすの なかぬかきりは あらしとそおもふ |
0012 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた |
作者 | 源まさすみ(源当純) |
原文 |
谷風に とくるこほりの ひまことに うちいつる浪や 春のはつ花 |
かな |
たにかせに とくるこほりの ひまことに うちいつるなみや はるのはつはな |
0013 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた |
作者 | 紀とものり(紀友則) |
原文 |
花のかを 風のたよりに たくへてそ 鶯さそふ しるへにはやる |
かな |
はなのかを かせのたよりに たくへてそ うくひすさそふ しるへにはやる |
0014 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた |
作者 | 大江千里 |
原文 |
うくひすの 谷よりいつる こゑなくは 春くることを たれかしらまし |
かな |
うくひすの たによりいつる こゑなくは はるくることを たれかしらまし |
0015 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮のうたあはせのうた |
作者 | 在原棟梁(ありわらむねはり・業平長男) |
原文 |
春たてと 花もにほはぬ 山さとは ものうかるねに 鶯そなく |
かな |
はるたてと はなもにほはぬ やまさとは ものうかるねに うくひすそなく |
0016 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
野辺ちかく いへゐしせれは うくひすの なくなるこゑは あさなあさなきく |
かな |
のへちかく いへゐしせれは うくひすの なくなるこゑは あさなあさなきく |
0017 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
かすかのは けふはなやきそ わか草の つまもこもれり 我もこもれり |
かな |
かすかのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり われもこもれり |
コメ |
参照:伊勢12段(武蔵野)。 「女わびて、 『武蔵野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり われもこもれり』」 →武蔵が春日(かすか)に変更。 |
0018 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
かすかのの とふひののもり いてて見よ 今いくかありて わかなつみてむ |
かな |
かすかのの とふひののもり いててみよ いまいくかありて わかなつみてむ |
0019 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
み山には 松の雪たに きえなくに 宮こはのへの わかなつみけり |
かな |
みやまには まつのゆきたに きえなくに みやこはのへの わかなつみけり |
0020 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
梓弓 おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらは わかなつみてむ |
かな |
あつさゆみ おしてはるさめ けふふりぬ あすさへふらは わかなつみてむ |
0021 | |
詞書 |
仁和のみかとみこにおましましける時に、 人にわかなたまひける御うた |
作者 | 仁和のみかと(※光孝天皇・代作) |
原文 |
君かため 春ののにいてて わかなつむ わか衣手に 雪はふりつつ |
かな |
きみかため はるののにいてて わかなつむ わかころもてに ゆきはふりつつ |
コメ |
百人一首15。 きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ /君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ |
0022 | |
詞書 |
歌たてまつれとおほせられし時 よみてたてまつれる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
かすかのの わかなつみにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ |
かな |
かすかのの わかなつみにや しろたへの そてふりはへて ひとのゆくらむ |
0023 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | 在原行平朝臣 |
原文 |
はるのきる かすみの衣 ぬきをうすみ 山風にこそ みたるへらなれ |
かな |
はるのきる かすみのころも ぬきをうすみ やまかせにこそ みたるへらなれ |
0024 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮の歌合によめる |
作者 | 源むねゆきの朝臣(源宗于) |
原文 |
ときはなる 松のみとりも 春くれは 今ひとしほの 色まさりけり |
かな |
ときはなる まつのみとりも はるくれは いまひとしほの いろまさりけり |
0025 | |
詞書 |
歌たてまつれとおほせられし時に よみてたてまつれる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
わかせこか 衣はるさめ ふることに のへのみとりそ いろまさりける |
かな |
わかせこか ころもはるさめ ふることに のへのみとりそ いろまさりける |
0026 | |
詞書 |
歌たてまつれとおほせられし時に よみてたてまつれる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
あをやきの いとよりかくる 春しもそ みたれて花の ほころひにける |
かな |
あをやきの いとよりかくる はるしもそ みたれてはなの ほころひにける |
0027 | |
詞書 | 西大寺のほとりの柳をよめる |
作者 | 僧正遍昭 |
原文 |
あさみとり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける 春の柳か |
かな |
あさみとり いとよりかけて しらつゆを たまにもぬける はるのやなきか |
0028 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
ももちとり さへつる春は 物ことに あらたまれとも 我そふり行く |
かな |
ももちとり さへつるはるは ものことに あらたまれとも われそふりゆく |
0029 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす(※恐らく猿丸) |
原文 |
をちこちの たつきもしらぬ 山なかに おほつかなくも よふことりかな |
かな |
をちこちの たつきもしらぬ やまなかに おほつかなくも よふことりかな |
コメ | 猿丸集49に全く同一の記載あり。 |
0030 | |
詞書 |
かりのこゑをききて こしへまかりにける人を思ひてよめる |
作者 | 凡河内みつね(凡河内躬恒) |
原文 |
春くれは かりかへるなり 白雲の みちゆきふりに ことやつてまし |
かな |
はるくれは かりかへるなり しらくもの みちゆきふりに ことやつてまし |
0031 | |
詞書 | 帰雁をよめる |
作者 | 伊勢(伊勢の御) |
原文 |
はるかすみ たつを見すてて ゆくかりは 花なきさとに すみやならへる |
かな |
はるかすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる |
0032 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
折りつれは 袖こそにほへ 梅花 有りとやここに うくひすのなく |
かな |
をりつれは そてこそにほへ うめのはな ありとやここに うくひすのなく |
0033 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
色よりも かこそあはれと おもほゆれ たか袖ふれし やとの梅そも |
かな |
いろよりも かこそあはれと おもほゆれ たかそてふれし やとのうめそも |
0034 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
やとちかく 梅の花うゑし あちきなく まつ人のかに あやまたれけり |
かな |
やとちかく うめのはなうゑし あちきなく まつひとのかに あやまたれけり |
0035 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
梅花 たちよるはかり ありしより 人のとかむる かにそしみぬる |
かな |
うめのはな たちよるはかり ありしより ひとのとかむる かにそしみぬる |
0036 | |
詞書 | むめの花ををりてよめる |
作者 |
東三条の左のおほいまうちきみ (東三条左大臣、源常、みなもとのときわ) |
原文 |
鶯の 笠にぬふといふ 梅花 折りてかささむ おいかくるやと |
かな |
うくひすの かさにぬふといふ うめのはな をりてかささむ おいかくるやと |
0037 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | 素性法師 |
原文 |
よそにのみ あはれとそ見し 梅花あ かぬいろかは 折りてなりけり |
かな |
よそにのみ あはれとそみし うめのはな あかぬいろかは をりてなりけり |
0038 | |
詞書 | むめの花ををりて人におくりける |
作者 | とものり(紀友則) |
原文 |
君ならて 誰にか見せむ 梅花 色をもかをも しる人そしる |
かな |
きみならて たれにかみせむ うめのはな いろをもかをも しるひとそしる |
0039 | |
詞書 | くらふ山にてよめる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
梅花 にほふ春へは くらふ山 やみにこゆれと しるくそ有りける |
かな |
うめのはな にほふはるへは くらふやま やみにこゆれと しるくそありける |
0040 | |
詞書 |
月夜に梅花ををりて と人のいひけれは、をるとてよめる |
作者 | みつね(凡河内躬恒) |
原文 |
月夜には それとも見えす 梅花 かをたつねてそ しるへかりける |
かな |
つきよには それともみえす うめのはな かをたつねてそ しるへかりける |
0041 | |
詞書 | はるのよ梅花をよめる |
作者 | みつね(凡河内躬恒) |
原文 |
春の夜の やみはあやなし 梅花 色こそ見えね かやはかくるる |
かな |
はるのよの やみはあやなし うめのはな いろこそみえね かやはかくるる |
0042 | |
詞書 |
はつせにまうつることに やとりける人の家にひさしくやとらて、 ほとへてのちにいたれりけれは、 かの家のあるしかくさたかになむ やとりはあるといひいたして侍りけれは、 そこにたてりけるむめの花ををりてよめる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
人はいさ 心もしらす ふるさとは 花そ昔の かににほひける |
かな |
ひとはいさ こころもしらす ふるさとは はなそむかしの かににほひける |
コメ |
百人一首35。 ひとはいさ こゝろもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける /人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける |
0043 | |
詞書 | 水のほとりに梅花さけりけるをよめる |
作者 | 伊勢(伊勢の御) |
原文 |
春ことに なかるる河を 花と見て をられぬ水に 袖やぬれなむ |
かな |
はることに なかるるかはを はなとみて をられぬみつに そてやぬれなむ |
0044 | |
詞書 | 水のほとりに梅花さけりけるをよめる |
作者 | 伊勢(伊勢の御) |
原文 |
年をへて 花のかかみと なる水は ちりかかるをや くもるといふらむ |
かな |
としをへて はなのかかみと なるみつは ちりかかるをや くもるといふらむ |
0045 | |
詞書 | 家にありける梅花のちりけるをよめる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
くるとあくと めかれぬものを 梅花 いつの人まに うつろひぬらむ |
かな |
くるとあくと めかれぬものを うめのはな いつのひとまに うつろひぬらむ |
0046 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮の歌合のうた |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
梅かかを そてにうつして ととめては 春はすくとも かたみならまし |
かな |
うめかかを そてにうつして ととめては はるはすくとも かたみならまし |
0047 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮の歌合のうた |
作者 | 素性法師 |
原文 |
ちると見て あるへきものを 梅花 うたてにほひの そてにとまれる |
かな |
ちるとみて あるへきものを うめのはな うたてにほひの そてにとまれる |
0048 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
ちりぬとも かをたにのこせ 梅花 こひしき時の おもひいてにせむ |
かな |
ちりぬとも かをたにのこせ うめのはな こひしきときの おもひいてにせむ |
0049 | |
詞書 |
人の家にうゑたりけるさくらの花 さきはしめたりけるを見てよめる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
ことしより 春しりそむる さくら花 ちるといふ事は ならはさらなむ |
かな |
ことしより はるしりそむる さくらはな ちるといふことは ならはさらなむ |
0050 | |
詞書 |
題しらす/又は、 さととほみ人もすさめぬ山さくら |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
山たかみ 人もすさめぬ さくら花 いたくなわひそ 我見はやさむ |
かな |
やまたかみ ひともすさへぬ さくらはな いたくなわひそ われみはやさむ |
0051 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
やまさくら わか見にくれは 春霞 峰にもをにも たちかくしつつ |
かな |
やまさくら わかみにくれは はるかすみ みねにもをにも たちかくしつつ |
0052 | |
詞書 |
そめとののきさきのおまへに花かめに さくらの花をささせ給へるを見てよめる |
作者 |
さきのおほきおほいまうちきみ (先の太政大臣。藤原良房とされる) |
原文 |
年ふれは よはひはおいぬ しかはあれと 花をし見れは もの思ひもなし |
かな |
としふれは よはひはおいぬ しかはあれと はなをしみれは ものおもひもなし |
0053 | |
詞書 | なきさの院にてさくらを見てよめる |
作者 | 在原業平朝臣(※) |
原文 |
世中に たえてさくらの なかりせは 春の心は のとけからまし |
かな |
よのなかに たえてさくらの なかりせは はるのこころは のとけからまし |
コメ |
出典:伊勢82段(渚の院)。 「馬頭なりける人のよめる。 『世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし』」 業平最初の歌が渚の院というのは土佐に参照されているように、貫之による選定である。伊勢物語で業平(馬頭なりける人)と明示された数少ない歌が最初にくることは、伊勢は業平日記としていないという貫之の意志表明でもある。この53と合わせて続く63の業平は、伊勢63段の在五に掛けた。 この歌は、正確には伊勢の著者の適当な翻案で、業平が直接詠んだものとは限らない。源氏物語で歌が下手なキャラ(近江君)の歌を著者が書いたようなもの。この歌は風流な内容ではなく、ただ馬鹿げた内容。それに掛けて馬頭とした。 根拠①:伊勢101段で業平はもとより歌を知らないとしつつ、あえて詠ませればこのようであったという描写(あるじ(=行平)のはらからなる…もとより歌のことは知らざりければ、すまひけれど、強ひてよませければ、かくなむ)。 根拠②:107段で言葉も歌も知らないとした娘が108段で突如歌をよむ描写。 根拠③:伊勢は万葉からすら直接引用など一度もしていない。まして①のような業平の歌を引用する動機がない。業平の一般的人格評は最悪である。業平の評判の実質的根拠は伊勢にしかない。 |
0054 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
いしはしる たきなくもかな 桜花 たをりてもこむ 見ぬ人のため |
かな |
いしはしる たきなくもかな さくらはな たをりてもこむ みぬひとのため |
0055 | |
詞書 | 山のさくらを見てよめる |
作者 | そせい法し(素性法師) |
原文 |
見てのみや 人にかたらむ さくら花 てことにをりて いへつとにせむ |
かな |
みてのみや ひとにかたらむ さくらはな てことにをりて いへつとにせむ |
0056 | |
詞書 | 花さかりに京を見やりてよめる |
作者 | そせい法し(素性法師) |
原文 |
みわたせは 柳桜を こきませて 宮こそ春の 錦なりける |
かな |
みわたせは やなきさくらを こきませて みやこそはるの にしきなりける |
0057 | |
詞書 |
さくらの花のもとにて 年のおいぬることをなけきてよめる |
作者 | きのとものり(紀友則) |
原文 |
いろもかも おなしむかしに さくらめと 年ふる人そ あらたまりける |
かな |
いろもかも おなしむかしに さくらめと としふるひとそ あらたまりける |
0058 | |
詞書 | をれるさくらをよめる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
たれしかも とめてをりつる 春霞 たちかくすらむ 山のさくらを |
かな |
たれしかも とめてをりつる はるかすみ たちかくすらむ やまのさくらを |
0059 | |
詞書 |
歌たてまつれとおほせられし時に よみてたてまつれる |
作者 | つらゆき(紀貫之) |
原文 |
桜花 さきにけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲 |
かな |
さくらはな さきにけらしな あしひきの やまのかひより みゆるしらくも |
0060 | |
詞書 | 寛平御時きさいの宮の歌合のうた |
作者 | とものり(紀友則) |
原文 |
三吉野の 山へにさける さくら花 雪かとのみそ あやまたれける |
かな |
みよしのの やまへにさける さくらはな ゆきかとのみそ あやまたれける |
0061 | |
詞書 | やよひにうるふ月ありける年よみける |
作者 | 伊勢(伊勢の御) |
原文 |
さくら花 春くははれる 年たにも 人の心に あかれやはせぬ |
かな |
さくらはな はるくははれる としたにも ひとのこころに あかれやはせぬ |
0062 | |
詞書 |
さくらの花のさかりに、 ひさしくとはさりける人の きたりける時によみける |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
あたなりと なにこそたてれ 桜花 年にまれなる 人もまちけり |
かな |
あたなりと なにこそたてれ さくらはな としにまれなる ひともまちけり |
コメ |
出典:伊勢17段(年にまれなる人)。 「年ごろおとづれざりける人の、 桜の盛りに見に来たりければ、あるじ、 『あだなりと 名にこそたてれ 桜花 年にまれなる 人も待けり』」 |
0063 | |
詞書 | 返し |
作者 | なりひらの朝臣(在原業平)(※誤認定) |
原文 |
けふこすは あすは雪とそ ふりなまし きえすはありとも 花と見ましや |
かな |
けふこすは あすはゆきとそ ふりなまし きえすはありとも はなとみましや |
コメ |
出典:伊勢17段(年にまれなる人)。 「(62に)返し、 『今日来ずは 明日は雪とぞ 降りなまし 消えずはありとも 花と見ましや』」 この歌は伊勢17段では主体が全く明示されていないが、これは伊勢物語が在五日記と丸ごとみなされたためにこのように認定されている。 最近の現代的学説はそうではないとぼかし始めたが(認定の大前提が崩れ始めた)、一般の認識は未だにそのようなものだろう。しかも強固に。 伊勢の認定が崩れると、古今の認定も、その目線で集められた業平集も全て崩れ去る。それを防ぐため、伊勢の原型は905年以前で次第に増補されたなどとアクロバティックな苦肉の策を弄している。しかし伊勢の突出した参照性はあまりに明らかであり(詞書の分析参照、仲麻呂の歌との同様の分量の詞書と、業平初出が渚の院であることから、いずれも土佐で参照した貫之による)、これを認められないと、右の詞書を左注とか言い出す他なくなる。業平を53・63に配置したのは伊勢63段の在五に基づく。これは昔男ではない。在五を昔男というのは、自分の頭で考えて伊勢を通して読めない人。 |
0064 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
ちりぬれは こふれとしるし なきものを けふこそさくら をらはをりてめ |
かな |
ちりぬれは こふれとしるし なきものを けふこそさくら をらはをりてめ |
0065 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | よみ人しらす |
原文 |
をりとらは をしけにもあるか 桜花 いさやとかりて ちるまては見む |
かな |
をりとらは をしけにもあるか さくらはな いさやとかりて ちるまてはみむ |
0066 | |
詞書 | 題しらす |
作者 | きのありとも(紀有友) |
原文 |
さくらいろに 衣はふかく そめてきむ 花のちりなむ のちのかたみに |
かな |
さくらいろに ころもはふかく そめてきむ はなのちりなむ のちのかたみに |
0067 | |
詞書 |
さくらの花のさけりけるを 見にまうてきたりける人によみておくりける |
作者 | みつね(凡河内躬恒) |
原文 |
わかやとの 花見かてらに くる人は ちりなむのちそ こひしかるへき |
かな |
わかやとの はなみかてらに くるひとは ちりなむのちそ こひしかるへき |
0068 | |
詞書 | 亭子院歌合の時よめる |
作者 | 伊勢(伊勢の御) |
原文 |
見る人も なき山さとの さくら花 ほかのちりなむ のちそさかまし |
かな |
みるひとも なきやまさとの さくらはな ほかのちりなむ のちそさかまし |