原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故到坐 木幡村之時。 |
かれ木幡こはたの村に 到ります時に、 |
かくて木幡こばたの村に おいでになつた時に、 |
麗美孃子。 遇其道衢。 |
その道衢ちまたに、 顏美よき孃子遇へり。 |
その道で 美しい孃子にお遇いになりました。 |
爾天皇問 其孃子曰。 |
ここに天皇、 その孃子に問ひたまはく、 |
そこで天皇が その孃子に、 |
汝者誰子。 |
「汝いましは誰が子ぞ」 と問はしければ、 |
「あなたは誰の子か」 とお尋ねになりましたから、 |
答白。 | 答へて白さく、 | お答え申し上げるには、 |
丸邇之 比布禮能 意富美之女。 名 宮主矢河枝比賣。 |
「丸邇わにの 比布禮ひふれの 意富美おほみが女、 名は宮主矢河枝 みやぬしやかはえ比賣」とまをしき。 |
「ワニノ ヒフレの オホミの女の ミヤヌシヤガハエ姫でございます」 と申しました。 |
天皇即詔其孃子。 | 天皇すなはちその孃子に詔りたまはく、 | 天皇がその孃子に |
吾明日還幸之時。 | 「吾明日あすのひ還りまさむ時、 | 「わたしが明日還る時に |
入坐汝家。 |
汝いましの家に入りまさむ」 と詔りたまひき。 |
あなたの家にはいりましよう」 と仰せられました。 |
故矢河枝比賣。 委曲語其父。 |
かれ矢河枝比賣、 委曲つぶさにその父に語りき。 |
そこでヤガハエ姫が その父に詳しくお話しました。 |
於是父答曰。 | ここに父答へて曰はく、 | 依つて父の言いますには、 |
是者 天皇坐那理。 〈此二字以音〉 |
「こは 大君にますなり。 |
「これは 天皇陛下でおいでになります。 |
恐之。 | 恐かしこし、 | 恐れ多いことですから、 |
我子仕奉。 | 我あが子仕へまつれ」 | わが子よ、お仕え申し上げなさい」 |
云而。 | といひて、 | と言つて、 |
嚴餝其家 候待者。 |
その家を嚴飾かざりて、 候さもらひ待ちしかば、 |
その家をりつぱに飾り立て、 待つておりましたところ、 |
明日入坐。 | 明日あすのひ入りましき。 | あくる日においでになりました。 |