原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是大雀命。 與宇遲能和紀郎子 二柱。 |
ここに大雀の命と 宇遲の和紀郎子と 二柱、 |
かくてオホサザキの命と ウヂの若郎子と お二方、 |
各讓天下之間。 | おのもおのも天の下を讓りたまふほどに、 | おのおの天下をお讓りになる時に、 |
海人貢大贄。 | 海人あま大贄にへを貢りつ。 | 海人あまが貢物を獻りました。 |
爾兄辭 令貢於弟。 |
ここに 兄は辭いなびて、 弟に貢らしめたまひ、 |
依つて兄の王はこれを拒んで 弟の王に獻らしめ、 |
弟辭令貢於 兄相讓之間。 |
弟はまた 兄に貢らしめて、 相讓りたまふあひだに |
弟の王はまた 兄の王に獻らしめて、 互にお讓りになる間に |
既經多日。 | 既に許多あまたの日を經つ。 | あまたの日を經ました。 |
如此相讓 非一二時 |
かく相讓りたまふこと 一度二度にあらざりければ、 |
かようにお讓り遊ばされることは 一度二度でありませんでしたから、 |
故海人 既疲往還而泣也。 |
海人あまは 既に往還ゆききに疲れて泣けり。 |
海人は 往來に疲れて泣きました。 |
故諺曰。 | かれ諺に、 | それで諺に、 |
海人乎。 | 「海人あまなれや、 | 「海人だから |
因己物而泣也。 | おのが物から音ね泣く」といふ。 | 自分の物ゆえに泣くのだ」というのです。 |
然 宇遲能和紀郎子者 早崩。 |
然れども 宇遲の和紀郎子は 早く崩かむさりましき。 |
しかるに ウヂの若郎子は 早くお隱れになりましたから、 |
故大雀命 | かれ大雀の命、 | オホサザキの命が |
治天下也。 | 天の下治らしめしき。 | 天下をお治めなさいました。 |