原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
於是天皇。 | ここに天皇、 | ここに天皇が |
問 大山守命與 大雀命詔。 |
大山守の命と 大雀の命とに問ひて詔りたまはく、 |
オホヤマモリの命と オホサザキの命とに |
汝等者。 孰愛 兄子與 弟子。 |
「汝等みましたちは、 兄なる子と 弟なる子と、 いづれか愛はしき」 と問はしたまひき。 |
「あなたたちは 兄である子と 弟である子とは、 どちらがかわいいか」 とお尋ねなさいました。 |
〈天皇所以發 是問者。 |
(天皇の この問を發したまへる故は、 |
天皇がかように お尋ねになつたわけは、 |
宇遲能和紀郎子。 有令治 天下之心也〉 |
宇遲の和紀郎子に 天の下治らしめむ御心 ましければなり) |
ウヂの若郎子に 天下をお授けになろうとする御心が おありになつたからであります。 |
爾 大山守命 白愛兄子。 |
ここに 大山守の命白さく、 「兄なる子を愛はしとおもふ」 と白したまひき。 |
しかるに オホヤマモリの命は、 「上の子の方がかわゆく思われます」 と申しました。 |
次 大雀命。 |
次に 大雀の命は、 |
次に オホサザキの命は |
知天皇。 所問賜之大御情 而白。 |
天皇の 問はしたまふ大御心を知らして、 白さく、 |
天皇のお尋ね遊ばされる御心を お知りになつて 申されますには、 |
兄子者。 既成人。 是無悒。 |
「兄なる子は、 既に人となりて、 こは悒いぶせきこと無きを、 |
「大きい方の子は 既に人となつておりますから 案ずることもございませんが、 |
弟子者。 未成人。 是愛。 |
弟なる子は、 いまだ人とならねば、 こを愛しとおもふ」とまをしたまひき。 |
小さい子は まだ若いのですから 愛らしく思われます」と申しました。 |
爾天皇詔。 | ここに天皇詔りたまはく、 | そこで天皇の仰せになりますには、 |
佐邪岐。 阿藝之言。 〈自佐至藝 五字以音〉 |
「雀さざき、 吾君あぎの言ことぞ、 |
「オホサザキよ、 あなたの言うのは |
如我所思。 |
我が思ほすが如くなる」 とのりたまひき。 |
わたしの思う通りです」 と仰せになつて、 |
即詔 別者。 |
すなはち 詔り別けたまひしくは、 |
そこでそれぞれに 詔みことのりを下されて、 |
大山守命。 | 「大山守の命は、 | 「オホヤマモリの命は |
爲山海之政。 | 山海うみやまの政をまをしたまへ。 | 海や山のことを管理なさい。 |
大雀命。 | 大雀の命は、 | オホサザキの命は |
執食國之 政以白賜。 |
食國おすくにの 政執りもちて白したまへ。 |
天下の政治を執つて 天皇に奏上なさい。 |
宇遲能和紀郎子。 | 宇遲うぢの和紀わき郎子は、 | ウヂの若郎子は |
所知天津日繼也。 |
天つ日繼知らせ」 と詔り別けたまひき。 |
帝位におつきなさい」 とお分わけになりました。 |
故大雀命者。 | かれ大雀の命は、 | 依つてオホサザキの命は |
勿違 天皇之命也。 |
大君の命みことに 違たがひまつらざりき。 |
父君の御命令に 背きませんでした。 |