原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是息長帶日賣命。 | ここに息長帶日賣の命、 | オキナガタラシ姫の命は、 |
於倭還上之時。 | 倭やまとに還り上ります時に | 大和に還りお上りになる時に、 |
因疑人心。 | 人の心疑うたがはしきに因りて、 | 人の心が疑わしいので |
一具喪船。 | 喪船を一つ具へて、 | 喪もの船を一つ作つて、 |
御子載其喪船。 | 御子をその喪船に載せまつりて、 | 御子をその喪の船にお乘せ申し上げて、 |
先令言漏之 御子既崩。 |
まづ「御子は既に崩りましぬ」 と言ひ漏らさしめたまひき。 |
まず御子は既にお隱れになりました と言い觸らさしめました。 |
兄弟で共謀 |
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如此 上幸之時。 |
かくして 上りいでましし時に、 |
かようにして 上つておいでになる時に、 |
香坂王。 | 香坂かごさかの王 | カゴサカの王、 |
忍熊王聞而。 | 忍熊おしくまの王聞きて、 | オシクマの王が聞いて |
思將待取。 | 待ち取らむと思ほして、 | 待ち取ろうと思つて、 |
進出於斗賀野。 | 斗賀野とがのに進み出でて、 | トガ野に進み出て |
爲宇氣比獦也。 | 祈狩うけひがりしたまひき。 | 誓を立てて狩をなさいました。 |
爾香坂王。 | ここに香坂かごさかの王、 | その時にカゴサカの王は |
騰坐歴木而是。 | 歴木くぬぎに騰りいまして見たまふに、 | クヌギに登つて御覽になると、 |
大怒猪出。 | 大きなる怒り猪出でて、 | 大きな怒り猪じしが出て |
堀其歴木。 | その歴木くぬぎを掘りて、 | そのクヌギを掘つて |
即咋食 其香坂王。 |
すなはちその香坂かごさかの王を 咋くひ食はみつ。 |
カゴサカの王を 咋くいました。 |
其弟忍熊王。 | その弟忍熊の王、 | しかるにその弟のオシクマの王は、 |
不畏 其態。 |
その態しわざを 畏かしこまずして、 |
誓の狩にかような惡い事があらわれたのを 畏れつつしまないで、 |
興軍 待向之時。 |
軍を興し、 待ち向ふる時に、 |
軍を起して 皇后の軍を待ち迎えられます時に、 |
赴喪船 將攻空船。 |
喪船に赴むかひて 空むなし船ふねを攻めたまはむとす。 |
喪の船に向かつて からの船をお攻めになろうとしました。 |
爾自其喪船 下軍相戰。 |
ここにその喪船より 軍を下して戰ひき。 |
そこでその喪の船から 軍隊を下して戰いました。 |