原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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此時忍熊王。 | その時忍熊おしくまの王は、 | この時にオシクマの王は、 |
以難波 吉師部之祖。 |
難波なにはの 吉師部きしべが祖、 |
難波なにわの 吉師部きしべの祖先の |
伊佐比宿禰 爲將軍。 |
伊佐比いさひの宿禰を 將軍いくさのきみとし、 |
イサヒの宿禰すくねを 將軍とし、 |
太子御方者。 | 太子ひつぎのみこの御方には、 | 太子の方では |
以丸邇臣之祖。 | 丸邇わにの臣が祖、 | 丸邇わにの臣の祖先の |
難波根子 建振熊命 爲將軍。 |
難波根子建振熊 なにはねこたけふるくまの命を、 將軍としたまひき。 |
難波なにわ ネコタケフルクマの命を 將軍となさいました。 |
故追退。 | かれ追ひ退そけて | かくて追い退けて |
到山代之時。 | 山代に到りし時に、 | 山城に到りました時に、 |
還立。 | 還り立ちて | 還り立つて |
各不退相戰。 | おのもおのも退かずて相戰ひき。 | 雙方退かないで戰いました。 |
爾建振熊命。 | ここに建振熊の命 | そこでタケフルクマの命は |
權而令云。 | 權たばかりて、 | 謀つて、 |
息長帶日賣命者。 既崩 |
「息長帶日賣の命は、 既に崩りましぬ。 |
皇后樣は 既にお隱れになりましたから |
故無可更戰。 | かれ、更に戰ふべくもあらず」といはしめて、 | もはや戰うべきことはないと言わしめて、 |
即絶弓絃。 | すなはち弓絃ゆづらを絶ちて、 | 弓の弦を絶つて |
欺陽歸服。 | 欺いつはりて歸服まつろひぬ。 | 詐いつわつて降服しました。 |
於是其將軍 既信詐。 |
ここにその將軍既に 詐りを信うけて、 |
そこで敵の將軍は その詐りを信じて |
弭弓藏兵。 |
弓を弭はづし、 兵つはものを藏めつ。 |
弓をはずし 兵器を藏しまいました。 |
爾自頂髮中 | ここに頂髮たぎふさの中より | その時に頭髮の中から |
採出設弦。 〈一名云 宇佐由豆留〉 |
設まけの 弦ゆづるを採とり出で |
豫備の 弓弦を取り出して、 |
更張追撃。 | 更に張りて追ひ撃つ。 | 更に張つて追い撃ちました。 |
故逃退逢坂。 | かれ逢坂あふさかに逃げ退きて、 | かくて逢坂おおさかに逃げ退いて、 |
對立亦戰。 | 對むき立ちてまた戰ふ。 | 向かい立つてまた戰いましたが、 |
爾追迫敗。 | ここに追ひ迫せめ敗りて、 | 遂に追い迫せまり敗つて |
沙沙那美。 | 沙沙那美ささなみに出でて、 | 近江のササナミに出て |
悉斬其軍。 | 悉にその軍を斬りつ。 | 悉くその軍を斬りました。 |