原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是教覺之状。 | ここに教へ覺したまふ状、 | そこで神のお教えになることは |
具如先日。 | つぶさに先さきの日の如くありて、 | 悉く前の通りで、 |
凡此國者。 | 「およそこの國は、 | 「すべてこの國は |
坐汝命 御腹之御子。 |
汝命いましみことの 御腹にます御子の |
皇后樣の お腹においでになる御子の |
所知國者也。 |
知らさむ國なり」 とのりたまひき。 |
治むべき國である」 とお教えになりました。 |
爾建内宿禰。 | ここに建内の宿禰白さく、 | そこでタケシウチの宿禰が、 |
白恐。我大神。 | 「恐し、我が大神、 | 「神樣、おそれ多いことですが、 |
坐其神 腹之御子。 |
その神の御腹にます御子は |
その皇后樣の お腹はらにおいでになる御子は |
何子歟。 |
何の御子ぞも」 とまをせば、 |
何の御子でございますか と申しましたところ、 |
答詔。 | 答へて詔りたまはく、 | |
男子也。 | 「男子をのこなり」と詔りたまひき。 | 「男の御子だ」と仰せられました。 |
爾具請之。 | ここにつぶさに請ひまつらく、 | そこで更にお願い申し上げたことは、 |
今如此言教之 大神者。 |
「今かく言教へたまふ大神は、 | 「今かようにお教えになる神樣は |
欲知其御名。 | その御名を知らまくほし」とまをししかば、 | 何という神樣ですか」と申しましたところ、 |
即答詔。 | 答へ詔りたまはく、 | お答え遊ばされるには |
是天照大神 之御心者。 |
「こは天照らす大神の御心なり。 | 「これは天照らす大神の御心だ。 |
亦 底筒男。 |
また 底筒そこつつの男を、 |
またソコツツノヲ・ |
中筒男。 | 中筒なかつつの男を、 | ナカツツノヲ・ |
上筒男。 | 上筒うはつつの男を | ウハツツノヲ |
三柱大神者也。 | 三柱の大神なり。 | の三神だ。 |
〈此時 其三柱大神之 御名者顯也〉 |
(この時に その三柱の大神の御名は 顯したまへり) |
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今寔 思求其國者。 |
今まことに その國を求めむと思ほさば、 |
今まことに あの國を求めようと思われるなら、 |
於天神地祇。 | 天あまつ神かみ地くにつ祇かみ、 | 天地の神たち、 |
亦 山神及 河海之諸神。 |
また 山の神 海河の神たちまでに |
また 山の神、 海河の神たちに |
悉奉幣帛。 | 悉に幣帛ぬさ奉り、 | 悉く幣帛へいはくを奉り、 |
我之御魂。 | 我が御魂を | わたしの御魂みたまを |
坐于船上而。 | 御船の上にませて、 | 御船みふねの上にお祭り申し上げ、 |
眞木灰 納瓠。 |
眞木まきの灰を 瓠ひさごに納れ、 |
木の灰を 瓠ひさごに入れ、 |
亦箸及 比羅傳 〈此三字以音〉 多作。 |
また箸と 葉盤ひらでとを 多さはに作りて、 |
また箸はしと 皿とを 澤山に作つて、 |
皆皆散浮大海 以可度。 |
皆皆大海に散らし浮けて、 度わたりますべし」 とのりたまひき。 |
悉く大海に散ちらし浮うかべて お渡わたりなさるがよい」 と仰せなさいました。 |
ここでは神の名が複数でてくる。
天照は権威の所在を示している。続く三柱がいわゆる住吉三神で(古事記での呼称は墨江大神)、複数なので直接の交信主ではない。表記上は、これらの命を受けたの霊的存在が、神功皇后に憑依し、指図を実行しているということになる。一応古事記に書いてあることなので、この神がかりが、ただの狂言や狐憑き(野狐)という可能性は除外して考えると、大規模組織の意思決定のように、末端の実行者の意思決定でされているものではない(上巻で示されたように、安河原での評議を経ている)。
だから実質はこの三神の意志で、それを否定しなかったのが天照、ということに表記上はなる。