「三韓征伐」は、神功皇后の命で朝鮮半島に侵攻し服属させたことの呼称で、古事記の表記ではない。この三韓は、高句麗・新羅・百済。
古事記に高句麗の記述はないが、三韓と対照で住吉三神(底筒男、中筒男、上筒男、三柱大神)が示されているので、意図的に触れていないと思われる(狐狗狸・コックリ・狐憑きに当てて没? 新羅を馬甘(ばかん)とするのはその名残とも。古事記の由来は表題から基本ギャグ)。
原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故備如教覺。 |
かれつぶさに 教へ覺したまへる如くに、 |
そこで悉く 神の教えた通りにして |
整軍雙船。 | 軍いくさを整へ、船雙なめて、 | 軍隊を整え、多くの船を竝べて |
度幸之時。 | 度りいでます時に、 | 海をお渡りになりました時に、 |
海原之魚。 | 海原の魚ども、 | 海中の魚どもは |
不問大小。 | 大きも小きも、 | 大小となくすべて出て、 |
悉負御船而渡。 | 悉に御船を負ひて渡りき。 | 御船を背負つて渡りました。 |
爾順風大起。 | ここに順風おひかぜいたく起り、 | 順風が盛んに吹いて |
御船從浪。 | 御船浪のまにまにゆきつ。 | 御船は波のまにまに行きました。 |
故其御船之波瀾。 | かれその御船の波、 | その御船の波が |
押騰新羅之國。 | 新羅しらぎの國に押し騰あがりて、 | 新羅しらぎの國に押し上つて |
既到半國。 | 既に國半なからまで到りき。 | 國の半にまで到りました。 |
於是其國王 畏惶奏言。 |
ここにその國主こにきし、 畏おぢ惶かしこみて 奏まをして言まをさく、 |
依つてその國王が 畏おじ恐れて、 |
自今以後。 | 「今よ後、 | 「今から後は |
隨天皇命而。 | 天皇おほきみの命のまにまに、 | 天皇の御命令のままに |
爲御馬甘。 | 御馬甘みまかひとして、 | 馬飼うまかいとして、 |
毎年雙船。 | 年の毎はに船雙なめて | 毎年多くの |
不乾船腹。 | 船腹乾ほさず、 | 船の腹を乾かわかさず、 |
不乾䑨檝。 | さをかぢ乾さず、 | 柁檝かじさおを乾かわかさずに、 |
共與天地。 | 天地のむた、 | 天地のあらんかぎり、 |
無退仕奉。 |
退しぞきなく仕へまつらむ」 とまをしき。 |
止まずにお仕え申し上げましよう」 と申しました。 |
故是以新羅國者。 |
かれここを以ちて、 新羅しらぎの國をば、 |
かような次第で 新羅の國をば |
定御馬甘。 | 御馬甘みまかひと定めたまひ、 | 馬飼うまかいとお定め遊ばされ、 |
百濟國者。 | 百濟くだらの國をば、 | 百濟くだらの國をば |
定渡屯家。 | 渡わたの屯家みやけと定めたまひき。 | 船渡ふなわたりの役所とお定めになりました。 |
爾以其御杖。 | ここにその御杖を | そこで御杖を |
衝立新羅國主之門。 |
新羅しらぎの 國主こにきしの門かなとに 衝き立てたまひ、 |
新羅の 國主の門に おつき立て遊ばされ、 |
即以墨江大神之 荒御魂。 |
すなはち墨江すみのえの大神の 荒御魂あらみたまを、 |
住吉の大神の 荒い御魂を、 |
爲國守神而。祭鎭。 還渡也。 |
國守ります神と祭り鎭めて 還り渡りたまひき。 |
國をお守りになる神として祭つて お還り遊ばされました。 |