原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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爾其熊曾建 白言。 |
ここにその熊曾建 白して曰さく、 |
ここにそのクマソタケルが 申しますには、 |
莫動其刀。 | 「その刀をな動かしたまひそ。 | 「そのお刀をお動かし遊ばしますな。 |
僕有白言。 |
僕やつこ白すべきことあり」 とまをす。 |
申し上げることがございます」 と言いました。 |
爾暫 許押伏。 |
ここに暫しまし 許して押し伏せつ。 |
そこでしばらく 押し伏せておいでになりました。 |
大八嶋國の倭男具那王 |
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於是白言。 | ここに白して言さく、 | |
汝命者誰。 | 「汝なが命は誰そ」 |
「あなた樣さまは どなたでいらつしやいますか」 |
と白ししかば、 | と申しましたから、 | |
爾詔。 | ||
吾者 坐纒向之 日代宮。 |
「吾あは 纏向まきむくの 日代ひしろの宮にましまして、 |
「わたしは 纏向まきむくの 日代ひしろの宮においで遊ばされて |
所知 大八嶋國。 |
大八島國おほやしまぐに 知しらしめす、 |
天下を お治めなされる |
大帶日子 淤斯呂和氣天皇 之御子。 |
大帶日子淤斯呂和氣 おほたらしひこ おしろわけの天皇 の御子、 |
オホタラシ彦 オシロワケの天皇の 御子の |
名倭男具那王 者也。 |
名は倭男具那 やまとをぐなの王なり。 |
ヤマトヲグナの王という者だ。 |
意禮熊曾建二人。 | おれ熊曾建二人、 | お前たちクマソタケル二人が |
不 無禮聞看而。 |
伏まつろはず、 禮ゐやなしと聞こしめして、 |
服從しないで 無禮だとお聞きなされて、 |
取殺意禮詔 而遣。 |
おれを取り殺とれと詔りたまひて、 遣せり」 とのりたまひき。 |
征伐せよと仰せになつて、 お遣わしになつたのだ」 と仰せられました。 |
野蛮度:熊<倭 |
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爾其熊曾建白。 | ここにその熊曾建白さく、 | そこでそのクマソタケルが、 |
信然也。 | 「信に然しからむ。 | 「ほんとうにそうでございましよう。 |
於西方。 | 西の方に | 西の方に |
除吾二人。 | 吾二人を除おきては、 | 我々二人を除いては |
無建強人。 | 建たけく強こはき人無し。 | 武勇の人間はありません。 |
然於大倭國。 | 然れども大倭おほやまとの國に、 | しかるに大和の國には |
益吾二人而。 | 吾二人にまして | 我々にまさつた |
建男者坐祁理。 | 建たけき男は坐いましけり。 | 強い方がおいでになつたのです。 |
是以。 吾獻御名。 |
ここを以ちて吾、 御名を獻らむ。 |
それでは お名前を獻上致しましよう。 |
自今以後。 | 今よ後、 | 今からは |
應稱 倭建御子。 |
倭建やまとたけるの御子と 稱へまをさむ」とまをしき。 |
ヤマトタケルの御子と 申されるがよい」と申しました。 |
是事白訖。 | この事白まをし訖へつれば、 | かように申し終つて、 |
即如熟苽 振折而。 |
すなはち 熟苽ほぞちのごと、 振り拆さきて |
熟した瓜を 裂くように裂き |
殺也。 | 殺したまひき。 | 殺しておしまいになりました。 |
倭建命 |
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故自其時。 | かれその時より御名を稱へて、 | その時からお名前を |
稱御名謂倭建命。 | 倭建やまとたけるの命とまをす。 | ヤマトタケルの命と申し上げるのです。 |