原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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天皇詔 小碓命。 |
天皇、 小碓をうすの命に詔りたまはく、 |
天皇が ヲウスの命に仰せられるには |
何汝兄。 | 「何とかも汝みましの兄いろせ、 | 「お前の兄はどうして |
於朝夕之 大御食不參出來。 |
朝あした夕ゆふべの 大御食おほみけにまゐ出來でこざる。 |
朝夕の 御食事に出て來ないのだ。 |
專汝 泥疑 教覺。 |
もはら汝 みましねぎ 教へ覺せ」 と詔りたまひき。 |
お前が 引き受けて 教え申せ」 と仰せられました。 |
〈泥疑二字以音。 下效此〉 |
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如此詔以後。 | かく詔りたまひて後、 | かように仰せられて |
至于五日。 | 五日に至るまでに、 | 五日たつても |
猶不參出。 | なほまゐ出でず。 | やはり出て來ませんでした。 |
爾天皇 問賜小碓命。 |
ここに天皇、 小碓の命に問ひたまはく、 |
そこで、天皇が ヲウスの命にお尋ねになるには |
何汝兄。 久不參出。 |
「何ぞ汝の兄 久しくまゐ出來ざる。 |
「どうしてお前の兄が 永い間出て來ないのだ。 |
若有未誨乎。 |
もしいまだ誨をしへずありや」 と問ひたまひしかば、 |
もしやまだ教えないのか」 とお尋ねになつたので、 |
答白。 | 答へて白さく、 | お答えしていうには |
既爲泥疑也。 | 「既にねぎつ」とまをしたまひき。 | 「もう教えました」と申しました。 |
又詔。 如何 泥疑之。 |
また 「いかにかねぎつる」 と詔りたまひしかば、 |
また 「どのように教えたのか」 と仰せられましたので、 |
答白。 | 答へて白さく、 | お答えして |
朝署 入廁之時。 |
「朝署あさけに 厠に入りし時、 |
「朝早く 厠かわやにおはいりになつた時に、 |
持捕 搤㧗而。 |
待ち捕へ 搤つかみ批ひしぎて、 |
待つていてつかまえて つかみひしいで、 |
引闕 其枝。 |
その枝を 引き闕かきて、 |
手足を 折つて |
裹薦 投棄。 |
薦こもにつつみて 投げ棄うてつ」 とまをしたまひき。 |
薦こもにつつんで 投げすてました」 と申しました。 |