原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
爾臨其樂日。 | ここにその樂の日になりて、 | いよいよ宴會の日になつて、 |
如童女之髮。 梳垂。 其結御髮。 |
童女をとめの髮のごと その結はせる髮を 梳けづり垂れ、 |
結つておいでになる髮を 孃子の髮のように 梳けずり下げ、 |
服其姨之 御衣 御裳。 |
その姨みをばの 御衣みそ 御裳みもを服けして、 |
叔母樣の お衣裳をお著つけになつて |
既成童女之姿。 | 既に童女の姿になりて、 | 孃子の姿になつて |
交立女人之中。 | 女人をみなの中に交り立ちて、 | 女どもの中にまじり立つて、 |
入坐其室内。 | その室内むろぬちに入ります。 | その室の中におはいりになりました。 |
爾熊曾建 兄弟二人。 |
ここに熊曾建くまそたける 兄弟二人、 |
ここにクマソタケルの 兄弟二人が、 |
見感其孃子。 | その孃子を見感めでて、 | その孃子を見て感心して、 |
坐於己中而。 | おのが中に坐ませて、 | 自分たちの中にいさせて |
盛樂。 | 盛に樂うたげつ。 | 盛んに遊んでおりました。 |
故臨其酣時。 | かれその酣たけなはなる時になりて、 | その宴の盛んになつた時に、 |
自懷出劔。 | 御懷より劒を出だし、 | 命は懷から劒を出し、 |
取熊曾之 衣衿。 |
熊曾くまそが 衣の矜くびを取りて、 |
クマソタケルの 衣の襟を取つて |
以劔自 其胸刺通之時。 |
劒もちて その胸より刺し通したまふ時に、 |
劒をもつて その胸からお刺し通し遊ばされる時に、 |
其弟建。 | その弟おと建たける | その弟のタケルが |
見畏逃出。 | 見畏みて逃げ出でき。 | 見て畏れて逃げ出しました。 |
乃 追至 其室之 椅本。 |
すなはち その室の 椅はしの本に 追ひ至りて、 |
そこで その室の 階段のもとに 追つて行つて、 |
取其背。 | 背の皮を取り | 背の皮をつかんで |
以劔自尻刺通。 | 劒を尻より刺し通したまひき。 | うしろから劒で刺し通しました。 |