原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故受命。 | かれ命を受けたまはりて、 | 依つて御命令を受けて |
罷行之時。 | 罷り行いでます時に、 | おいでになつた時に、 |
參入。 伊勢大御神宮。 |
伊勢の大御神の宮に參りて、 | 伊勢の神宮に參拜して、 |
拜神朝廷。 | 神の朝廷みかどを拜みたまひき。 | 其處に奉仕して |
即白 其姨 倭比賣命者。 |
すなはちその姨みをば 倭やまと比賣の命に 白したまひしくは、 |
おいでになつた叔母樣の ヤマト姫の命に 申されるには、 |
東方十二道(崇神の東征冒頭で既出) |
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天皇。 既所以思 吾死乎。 |
「天皇 既に吾を死ねと 思ほせか、 |
「父上は わたくしを死ねと 思つていらつしやるのでしようか、 |
何撃遣 西方之 惡人等而。 |
何ぞ、西の方の 惡あらぶる人ひとどもを 撃とりに遣して、 |
どうして西の方の 從わない人たちを 征伐にお遣わしになつて、 |
返參上來之間。 | 返りまゐ上り來し間ほど、 | 還つてまいりまして |
未經幾時。 | 幾時いくだもあらねば、 | まだ間も無いのに、 |
不賜軍衆。 | 軍衆いくさびとどもをも賜はずて、 | 軍卒も下さらないで、 |
今更 平遣。 東方十二道之 惡人等。 |
今更に 東の方の十二道の 惡ぶる人どもを 平ことむけに遣す。 |
更に 東方諸國の 惡い人たちを 征伐するために お遣わしになるのでしよう。 |
因此思惟。 | これに因りて思へば | こういうことによつて思えば、 |
猶所思看 吾既死焉。 |
なほ吾を既に死ねと 思ほしめすなり」 とまをして、 |
やはりわたくしを早く死ねと 思つておいでになるのです」 と申して、 |
患泣 罷時。 |
患へ泣きて 罷りたまふ時に、 |
心憂く思つて泣いて お出ましになる時に、 |
草那藝劍と御嚢(おふくろ=母=天照) |
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倭比賣命。 | 倭比賣の命、 | ヤマト姫の命が、 |
賜草那藝劍。 〈那藝二字以音〉 |
草薙くさなぎの劒たちを賜ひ、 | 草薙の劒をお授けになり、 |
亦賜御嚢而。 | また御嚢みふくろを賜ひて、 | また嚢ふくろをお授けになつて、 |
詔若有急事。 | 「もし急とみの事あらば、 | 「もし急の事があつたなら、 |
解茲嚢口。 |
この嚢ふくろの口を解きたまへ」 と詔りたまひき。 |
この嚢の口をおあけなさい」 と仰せられました。 |