原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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此時 沙本毘賣命。 |
この時 沙本毘賣さほびめの命、 |
この時、 サホ姫の命は |
不得忍其兄。 | その兄にえ忍あへずして、 | 堪え得ないで、 |
自後門逃出而。 | 後しりつ門より逃れ出でて、 | 後の門から逃げて |
納其之稻城。 | その稻城いなぎに納いりましき。 | その城におはいりになりました。 |
此時 其后妊身。 |
この時に その后姙はらみましき。 |
この時に その皇后は姙娠 にんしんしておいでになり、 |
於是天皇。 | ここに天皇、 | |
不忍 其后懷妊 |
その后の、懷姙みませるに 忍へず、 |
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及愛重 | また愛重めぐみたまへることも、 | またお愛し遊ばされていることが |
至于三年。 | 三年になりにければ、 | もう三年も經つていたので、 |
故廻其軍。 | その軍を廻かへして | 軍を返して、 |
不急攻迫。 | 急すむやけくも攻めたまはざりき。 | 俄にお攻めになりませんでした。 |
如此逗留之間。 | かく逗留とどこほる間に、 | かように延びている間に |
其所妊之御子 既産。 |
その姙はらめる御子 既に産あれましぬ。 |
御子がお生まれになりました。 |
故出其御子。 | かれその御子を出して、 | そこでその御子を出して |
置稻城外。 | 稻城いなぎの外に置きまつりて、 | 城の外において、 |
令白天皇。 | 天皇に白さしめたまはく、 | 天皇に申し上げますには、 |
若此御子矣。 | 「もしこの御子を、 | 「もしこの御子をば |
天皇之御子所 思看者。 可治賜。 |
天皇の御子と思ほしめさば、 治めたまふべし」 とまをしたまひき。 |
天皇の御子と思しめすならば お育て遊ばせ」 と申さしめました。 |