原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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此謂 意富多多泥古人。 所以知神子者。 |
この 意富多多泥古といふ人を、 神の子と知れる所以ゆゑは、 |
この オホタタネコを 神の子と知つた次第は、 |
上所云 活玉依毘賣。 |
上にいへる活玉依 いくたまより毘賣、 |
上に述べた イクタマヨリ姫は |
其容姿端正。 | それ顏好かりき。 | 美しいお方でありました。 |
於是有神壯夫。 其形姿威儀。 於時無比。 夜半之時。 焂忽到來。 |
ここに壯夫をとこありて、 その形姿かたち威儀よそほひ 時に比たぐひ無きが、 夜半さよなかの時に たちまち來たり。 |
ところが形姿かたち 威儀いぎ竝ならびなき 一人の男が 夜中に たちまち來ました。 |
故相感。 共婚 供住之間。 |
かれ相感めでて 共婚まぐはひして、 住めるほどに、 |
そこで互に愛めでて 結婚して 住んでいるうちに、 |
未經幾時。 其美人妊身。 |
いまだ幾何いくだもあらねば、 その美人をとめ姙はらみぬ。 |
何程もないのに その孃子おとめが姙はらみました。 |
爾父母 恠其妊身之事。 |
ここに父母、 その姙はらめる事を怪みて、 |
そこで父母が 姙娠にんしんしたことを怪しんで、 |
問其女曰。 | その女に問ひて曰はく、 | その女に、 |
汝者自妊。 | 「汝いましはおのづから姙はらめり。 | 「お前は自然しぜんに姙娠にんしんした。 |
無夫 何由妊身乎。 |
夫ひこぢ無きに いかにかも姙はらめる」と問ひしかば、 |
夫が無いのに どうして姙娠したのか」と尋ねましたから、 |
答曰。 | 答へて曰はく、 | 答えて言うには |
有麗美壯夫。 不知其姓名。 |
「麗うるはしき壯夫をとこの、 その名も知らぬが、 |
「名も知らない りつぱな男が |
毎夕到來。 共住之間。 |
夕よごとに來りて 住めるほどに、 |
夜毎に來て 住むほどに、 |
自然懷妊。 |
おのづからに姙はらみぬ」 といひき。 |
自然しぜんに姙はらみました」 と言いました。 |