9代 開化天皇(かいか) |
---|
宮(春日之伊邪河宮) |
后妃・皇子女 |
・御眞木入日子印惠命 (ミマキイリヒコイニエの命・崇神天皇) |
・比古由牟須美王 (ヒコユムスミの王) |
・日子坐王 (ヒコイマスの王) |
・傍系の系譜 |
陵(伊邪河之坂上・いざかわの坂の上) |
原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
宮(春日之伊邪河宮・かすがのいざかわの宮) |
||
若倭根子日子 大毘毘命。 |
若倭根子日子大毘毘 わかやまとねこひこ おほびびの命、 |
ワカヤマトネコ彦 オホビビの命(開化天皇)、 |
坐春日之 伊邪河宮。 |
春日かすがの 伊耶河いざかはの宮 にましまして、 |
大和の春日の イザ河の宮においでになつて |
治天下也。 | 天の下治らしめしき。 | 天下をお治めなさいました。 |
后妃・皇子女 |
||
此天皇。娶 旦波之 大縣主。 名由碁理之女。 竹野比賣。 |
この天皇、 旦波たにはの 大縣主おほあがたぬし、 名は由碁理ゆごりが女むすめ、 竹野たかの比賣に娶ひて、 |
この天皇は、 丹波たんばの 大縣主おおあがたぬし ユゴリの女の タカノ姫と結婚して |
生御子。 比古由牟須美命。 〈一柱。 此王名以音〉 |
生みませる御子、 比古由牟須美 ひこゆむすみの命一柱。 |
お生みになつた御子は ヒコユムスミの命 お一方です。 |
又娶 庶母 伊迦賀色許賣命。 |
また 庶母みままはは 伊迦賀色許賣 いかがしこめの命に娶ひて、 |
また イカガシコメの命と結婚して |
生御子。 | 生みませる御子、 | お生みになつた御子は |
御眞木入日子 印惠命。 〈印惠二字以音〉 |
御眞木入日子印惠 みまきいりひこ いにゑの命、 |
ミマキイリ彦 イニヱの命と |
次御眞津比賣命。 〈二柱〉 |
次に御眞津みまつ比賣の命 二柱。 |
ミマツ姫の命との お二方です。 |
又娶 丸邇臣之祖。 日子國 意祁都命之妹。 意祁都比賣命。 〈意祁都三字以音〉 |
また 丸邇わにの臣の祖、 日子國意祁都 ひこくにおけつの命が妹、 意祁都おけつ比賣の命に 娶ひて、 |
また 丸邇わにの臣の祖先の ヒコクニオケツの命の妹の オケツ姫の命と 結婚して |
生御子。 日子坐王。 〈一柱〉 |
生みませる御子、 日子坐ひこいますの王 一柱。 |
お生みになつた御子は ヒコイマスの王みこ お一方です。 |
又娶 葛城之 垂見宿禰之女。 鸇比賣。 |
また葛城かづらきの 垂見たるみの宿禰が女、 鸇わし比賣に娶ひて |
また葛城かずらきの タルミの宿禰の女の ワシ姫と結婚して |
生御子 建豐 波豆羅和氣王。 〈一柱。 自波下五字以音〉 |
生みませる御子、 建豐波豆羅和氣 たけとよ はつらわけの王 一柱。 |
お生みになつた御子は タケトヨ ハツラワケの王 お一方です。 |
此天皇之御子等。 并五柱。 〈男王四。女王一〉 |
この天皇の御子たち、 并はせて五柱 (男王四柱、女王一柱) |
合わせて五人 おいでになりました。 |
御眞木入日子印惠命(崇神天皇) |
||
故 御眞木入日子 印惠命者。 治天下也。 |
かれ 御眞木入日子印惠 みまきいりひこ いにゑの命は、 天の下治らしめしき。 |
このうち ミマキイリ彦 イニヱの命は 天下をお治めなさいました。 |
比古由牟須美王 |
||
其兄 比古由牟須美 王之子。 |
その兄みこのかみ 比古由牟須美 ひこゆむすみの 王の御子、 |
その兄 ヒコユムスミの 王の御子は、 |
大筒木垂根王。 |
大筒木垂根 おほつつきたりねの王、 |
オホツツキタリネの王と |
次讚岐垂根王。 〈二王。 讚岐二字以音〉 |
次に讚岐垂根 さぬきたりねの王 二柱。 |
サヌキタリネの王と お二方で、 |
此二王之女。 五柱坐也。 |
この二柱の王の女、 五柱ましき。 |
この二王の女は 五人ありました。 |
日子坐王 |
||
次日子坐王。娶 山代之 荏名津比賣。 亦名 苅幡戸辨。 〈此一字以音〉 |
次に 日子坐ひこいますの王、 山代やましろの 荏名津えなつ比賣、 またの名は 苅幡戸辨かりはたとべ に娶ひて |
次にヒコイマスの王が 山代やましろの エナツ姫、 またの名は カリハタトベ と結婚して |
生子。 大俣王。次 小俣王。次 志夫美宿禰王。 〈三柱〉 |
生みませる子、 大俣おほまたの王、次に 小俣をまたの王、次に 志夫美しぶみの宿禰すくねの王 三柱。 |
生んだ子は オホマタの王と ヲマタの王と シブミの宿禰の王と お三方です。 |
又娶 春日 建國勝戸賣之女。 名沙本之 大闇見戸賣。 |
また春日かすがの 建國勝戸賣 たけくにかつとめが女、 名は沙本さほの 大闇見戸賣おほくらみとめに娶ひて、 |
またこの王が春日の タケクニカツトメの女の サホの オホクラミトメと結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ子が |
沙本毘古王。 | 沙本毘古さほびこの王、 | サホ彦の王・ |
次袁邪本王。 | 次に袁耶本をざほの王、 | ヲザホの王・ |
次沙本毘賣命。 亦名佐波遲比賣。 |
次に沙本さほ毘賣の命、 またの名は佐波遲さはぢ比賣、 |
サホ姫の命・ (サホ姫の命は またの名はサハヂ姫で、 |
〈此沙本毘賣命者。 爲伊久米天皇之后。 |
(この沙本毘賣の命は 伊久米三の天皇の 后となりたまへり。) |
この方は イクメ天皇の 皇后樣におなりになりました) |
自沙本毘古以下 三王名皆以音〉 |
||
次室毘古王。 〈四柱〉 |
次に室毘古むろびこの王 四柱。 |
ムロビコの王の お四方です。 |
又娶 近淡海之 御上 祝以伊都玖。 〈此三字以音〉 |
また近ちかつ 淡海あふみの 御上みかみの 祝はふりがもち いつく、 |
また近江の國の 御上みかみ山の 神職がお祭する |
天之御影神之女。 息長水依比賣。 |
天あめの御影みかげの神が女、 息長おきながの 水依みづより比賣に娶ひて、 |
アメノミカゲの神の女 オキナガノミヅヨリ姫と結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ子は |
丹波 比古多多須 美知能宇斯王。 〈此王名以音〉 |
丹波たにはの 比古多多須美知能宇斯 ひこたたすみちのうしの王、 |
丹波ノ ヒコタタス ミチノウシの王・ |
次 水穂眞若王。 |
次に 水穗みづほの 眞若まわかの王、 |
ミヅホノ マワカの王・ |
次 神大根王。 亦名 八瓜 入日子王。 |
次に 神大根 かむおほねの王、 またの名は 八瓜やつりの 入日子いりひこの王、 |
カムオホネの王、 またの名は ヤツリの イリビコの王・ |
次 水穂 五百依比賣。 |
次に水穗みづほの 五百依いほより比賣、 |
ミヅホノ イホヨリ姫・ |
次御井津比賣。 | 次に御井津みゐつ比賣 | ミヰツ姫の |
〈五柱〉 | 五柱。 | 五人です。 |
又娶 其母弟。 袁祁都比賣命。 |
またその母の弟 袁祁都をけつ比賣の命に 娶ひて、 |
また母の妹 オケツ姫と 結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ子は |
山代之 大筒木 眞若王。 |
山代やましろの 大筒木おほつつきの 眞若まわかの王、 |
山代の オホツツキの マワカの王・ |
次比古意須王。 | 次に比古意須ひこおすの王、 | ヒコオスの王・ |
次伊理泥王。 | 次に伊理泥いりねの王 | イリネの王の |
〈三柱。此二王名以音〉 | 三柱。 | 三人です。 |
傍系の系譜 |
||
凡日子坐王之子。 并十一王。 |
およそ日子坐ひこいますの王の子、 并はせて十五王とをまりいつはしら。 |
すべてヒコイマスの王の御子は 合わせて十五人ありました。 |
故兄 大俣王之子。 |
かれ兄このかみ 大俣おほまたの王の子、 |
兄のオホマタの王の子は |
曙立王。 | 曙立あけたつの王、 | アケタツの王・ |
次菟上王。 | 次に菟上うがかみの王 | ウナガミの王の |
〈二柱〉 | 二柱。 | 二人です。 |
此曙立王者。 〈伊勢之品遲部君。 伊勢之佐那造之祖〉 |
この曙立あけたつの王は、 伊勢の品遲ほむぢ部、 伊勢の佐那の造が祖なり。 |
このアケタツの王は、 伊勢の品遲部ほんじべ・ 伊勢の佐那の造の祖先です。 |
次菟上王者。 〈比賣陀君之祖〉 |
菟上うながみの王は、 比賣陀の君が祖なり。 |
ウナガミの王は、 比賣陀の君の祖先です。 |
次小俣王者。 〈當麻勾君之祖〉 |
次に小俣をまたの王は 當麻の勾の君が祖なり。 |
次にヲマタの王は 當麻たぎまの 勾まがりの君の祖先です。 |
次志夫美 宿禰王者。 〈佐佐君之祖也〉 |
次に 志夫美しぶみの 宿禰すくねの王は 佐佐の君が祖なり。 |
次にシブミの宿禰の王は 佐佐の君の祖先です。 |
次沙本毘古王者。 〈日下部連。 甲斐國造之祖〉 |
次に沙本毘古さほびこの王は、 日下部の連、 甲斐の國の造が祖なり。 |
次にサホ彦の王は 日下部くさかべの連・ 甲斐の國の造の祖先です。 |
次袁邪本王者。 〈葛野之別。 近淡海蚊野之別祖也〉 |
次に袁耶本をざほの王は、 葛野の別、 近つ淡海の 蚊野の別が祖なり。 |
次にヲザホの王は 葛野かずのの別・ 近つ淡海の 蚊野かやの別の祖先です。 |
次室毘古王者。 〈若狹之耳別之祖〉 |
次に室毘古むろびこの王は、 若狹の耳の別が祖なり。 |
次にムロビコの王は 若狹の耳の別の祖先です。 |
其美知能宇志王。 娶 丹波之 河上之摩須 郎女。 |
その美知能宇志 みちのうしの王、 丹波たにはの 河上の摩須ますの 郎女いらつめに娶ひて、 |
そのミチノウシの王が 丹波の 河上のマスの 郎女いらつめと 結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ子は |
比婆須比賣命。 | 比婆須ひばす比賣の命、 | ヒバス姫の命・ |
次眞砥野比賣命。 | 次に眞砥野まとの比賣の命、 | マトノ姫の命・ |
次弟比賣命。 | 次に弟おと比賣の命、 | オト姫の命・ |
次朝廷別王。 | 次に朝廷別みかどわけの王 | ミカドワケの王の |
〈四柱〉 | 四柱。 | 四人です。 |
此朝廷別王者。 〈三川之穂別之祖〉 |
この朝廷別 みかどわけの王は、 三川の穗の別が祖なり。 |
このミカドワケの王は、 三川の穗の別の祖先です。 |
此美知能宇斯王之弟。 水穂眞若王者。 〈近淡海之安直之祖〉 |
この美知能宇斯みちのうしの王の弟、 水穗みづほの眞若まわかの王は、 近つ淡海の安の直が祖なり。 |
このミチノウシの王の弟 ミヅホノマワカの王は 近つ淡海の安の直の祖先です。 |
次神大根王者。 〈三野國之 本巣國造。 長幡部連之祖〉 |
次に神大根かむおほねの王は、 三野の國の造、 本巣の國の造、 長幡部の連が祖なり。 |
次にカムオホネの王は 三野の國の造・ 本巣もとすの國の造・ 長幡部ながはたべの連の祖先です。 |
次山代之 大筒木眞若王。娶 同母弟伊理泥王之女。 丹波能 阿治佐波毘賣。 |
次に山代やましろの 大筒木眞若 おほつつきまわかの王、 同母弟いろせ伊理泥いりねの王が女、 丹波の 阿治佐波あぢさは毘賣に娶ひて、 |
その山代やましろの オホツツキマワカの王は 弟君イリネの王の女の 丹波たんばの アヂサハ姫と結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ御子は、 |
迦邇米雷王。 〈迦邇米三字以音〉 |
迦邇米雷 かにめいかづちの王、 |
カニメイカヅチの王です。 |
此王。 娶丹波之 遠津臣之女。 名高材比賣。 |
この王、 丹波たにはの 遠津とほつの臣が女、 名は高材たかき比賣に娶ひて、 |
この王が 丹波たんばの 遠津の臣の女の タカキ姫と結婚して |
生子。 息長宿禰王。 |
生みませる子、 息長おきながの宿禰の王、 |
生んだ御子は オキナガの宿禰の王です。 |
此王娶 葛城之 高額比賣。 |
この王、 葛城かづらきの 高額たかぬか比賣に娶ひて、 |
この王が 葛城のタカヌカ姫と結婚して |
生子。 | 生みませる子、 | 生んだ御子が |
息長帶比賣命。 | 息長帶おきながたらし比賣の命、 | オキナガタラシ姫の命・ |
次虚空津比賣命。 | 次に虚空津そらつ比賣の命、 | ソラツ姫の命・ |
次息長日子王。 | 次に息長日子おきながひこの王 | オキナガ彦の王の |
〈三柱。 | 三柱。 | 三人です。 |
此王者。 吉備品遲君。 針間阿宗君之祖〉 |
この王は 吉備の品遲の君、 針間の阿宗の君が祖なり。 |
このオキナガ彦の王は、 吉備の品遲ほむじの君・ 播磨の阿宗の君の祖先です。 |
又息長宿禰王。 |
また息長おきながの宿禰の王、 | またオキナガの宿禰の王が、 |
娶 河俣 稻依毘賣。 |
河俣かはまたの 稻依いなより毘賣に 娶ひて、 |
カハマタノ イナヨリ姫と 結婚して |
生子。 大多牟坂王。 〈多牟二字以音。 此者。 多遲摩國造之祖也〉 |
生みませる子、 大多牟坂 おほたむさかの王、 こは 多遲摩の國の造が祖なり。 |
生んだ子が オホタムサカの王で、 この方は 但馬たじまの國の造の祖先です。 |
上所謂。 建豐 波豆羅和氣王者。 |
上かみにいへる 建豐波豆羅和氣 たけとよはづらわけの王は |
上に出た タケトヨ ハヅラワケの王は、 |
〈道守臣。 | 道守の臣、 | 道守の臣・ |
忍海部造。 | 忍海部の造、 | 忍海部の造・ |
御名部造。 | 御名部の造、 | 御名部の造・ |
稻羽忍海部。 | 稻羽の忍海部、 | 稻羽の忍海部・ |
丹波之竹野別。 | 丹波の竹野の別、 | 丹波の竹野の別・ |
依網之阿毘古等之祖也〉 | 依網の阿毘古等が祖なり。 | 依網よさみの阿毘古等の祖先です。 |
陵(伊邪河之坂上・いざかわの坂の上) |
||
天皇 御年陸拾參歳。 |
天皇、 御年六十三歳むそぢまりみつ、 |
この天皇は 御年六十三歳、 |
御陵在伊邪河之坂上也。 | 御陵は伊耶河いざかはの坂の上にあり。 | 御陵はイザ河の坂の上にあります。 |