原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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人民・志自牟の家 |
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爾山部連 小楯。 |
ここに山部やまべの連むらじ 小楯をたて、 |
ここに山部やまべの連 小楯おだてが |
任針間國之 宰時。 |
針間はりまの國の 宰みこともちに任よさされし時に、 |
播磨の國の 長官に任命されました時に、 |
到其國之人民。 | その國の人民おほみたから | この國の人民の |
名志自牟之 新室樂。 |
名は志自牟しじむが 新室に到りて樂うたげしき。 |
シジムの家の 新築祝いに參りました。 |
於是。 盛樂。 酒酣。 |
ここに 盛さかりに樂うたげて 酒酣なかばなるに、 |
そこで 盛んに遊んで、 酒酣たけなわな時に |
以次第 皆儛。 |
次第つぎてをもちて みな儛ひき。 |
順次に 皆舞いました。 |
故 燒火少子二口。 |
かれ 火燒たきの小子わらは二人、 |
その時に 火焚ひたきの少年が二人 |
居竈傍。 | 竈かまどの傍へに居たる、 | 竈かまどの傍におりました。 |
おまえがまえ(前/舞え) |
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令儛 其少子等。 |
その小子どもに 儛はしむ。 |
依つてその少年たちに 舞わしめますに、 |
爾其一少子。 | ここにその一人の小子、 | 一人の少年が |
曰。 汝兄先儛。 |
「汝兄なせまづ儛ひたまへ」 といへば、 |
「兄上、まずお舞まいなさい」 というと、 |
其兄亦。 | その兄も、 | 兄も |
曰 汝弟先儛。 |
「汝弟なおとまづ儛ひたまへ」 といひき。 |
「お前がまず舞まいなさい」 と言いました。 |
如此相讓之時。 | かく相讓る時に、 | かように讓り合つているので、 |
其會人等。 | その會つどへる人ども、 | その集まつている人たちが |
咲其相讓之状。 | その讓れる状さまを咲わらひき。 | 讓り合う有樣を笑いました。 |
爾遂兄儛訖。 | ここに遂に兄儛ひ訖りて、 | 遂に兄がまず舞い、 |
次弟將儛時。 | 次に弟儛はむとする時に、 | 次に弟が舞おうとする時に |
爲詠曰。 | 詠ながめごとしたまひつらく、 | 詠じました言葉は、 |
物部之。 | 物ものの部ふの、 | 武士である |
我夫子之。 | わが夫子せこが、 | わが君の |
取佩。 | 取り佩はける、 | お佩きになつている |
於大刀之手上。 | 大刀の手上たがみに、 | 大刀の柄つかに、 |
丹畫著。 | 丹書にかき著け、 | 赤い模樣を畫き、 |
其緒者。 | その緒には、 | その大刀の緒には |
載赤幡。 | 赤幡あかはたを裁ち、 | 赤い織物を裁たつて附け、 |
立赤幡。 | 赤幡たちて見れば、 | 立つて見やれば、 |
見者五十隱。 | い隱る、 | 向うに隱れる |
山三尾之。 | 山の御尾の、 | 山の尾の上の |
竹矣。 「本」訶岐 〈此二字以音〉 苅。 |
竹を 掻き 苅り、 |
竹を 刈り 取つて、 |
末 押縻魚簀。 |
末 押し靡かすなす、 |
その竹の末を 押し靡なびかせるように、 |
如調 八絃琴。 |
八絃やつをの琴を 調しらべたるごと、 |
八絃の琴を 調べたように、 |
所治賜天下。 | 天の下治しらし給たびし、 | 天下をお治めなされた |
伊邪本和氣。 | 伊耶本和氣いざほわけの | イザホワケの |
天皇之御子。 | 天皇の御子、 | 天皇の皇子の |
市邊之。 | 市の邊の | イチノベノ |
押齒王之。 | 押齒の王みこの、 | オシハの王の御子みこです。 |
奴末。 | 奴やつこ、御末みすゑ。 | わたくしは。 |
とのりたまひつ。 | と述べましたから、 | |
オホケとヲケ、王家に復帰 |
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爾即 小楯連聞驚而。 |
ここにすなはち 小楯の連聞き驚きて、 |
小楯が 聞いて驚いて |
自床墮轉而。 | 床とこより墮ち轉まろびて、 | 座席から落ちころんで、 |
追出其室人等。 | その室の人どもを追ひ出して、 | その家にいる人たちを追い出して、 |
其二柱王子。 | その二柱の御子を、 | そのお二人の御子を |
坐左右膝上。 |
左右ひだりみぎりの 膝の上へに坐ませまつりて、 |
左右の 膝の上にお据え申し上げ、 |
泣悲而。 | 泣き悲みて、 | 泣き悲しんで |
集人民作假宮。 | 人民どもを集へて、 | 民どもを集めて |
坐置 其假宮而。 |
假宮を作りて、 その假宮に坐ませまつり置きて、 |
假宮を作つて、 その假宮にお住ませ申し上げて |
貢上驛使。 | 驛使はゆまづかひ上りき。 | 急使を奉りました。 |
於是。 其姨飯豐王。 |
ここに その御姨をば飯豐いひとよの王、 |
そこで その伯母樣のイヒトヨの王が |
聞歡而。 | 聞き歡ばして、 | お喜びになつて、 |
令上於宮。 | 宮に上のぼらしめたまひき。 | 宮に上らしめなさいました。 |