原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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三重の采女(うねめ) |
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又天皇。 | また天皇、 | また天皇が |
坐 長谷之 百枝槻下。 |
長谷の 百枝槻ももえつきの下に ましまして、 |
長谷の 槻の大樹の下に おいでになつて |
爲豐樂之時。 | 豐の樂あかりきこしめしし時に、 | 御酒宴を遊ばされました時に、 |
伊勢國之 三重婇。 |
伊勢の國の 三重の婇うねめ |
伊勢の國の 三重から出た采女うねめが |
指擧 大御盞 以獻。 |
大御盞おほみさかづきを 捧げて 獻りき。 |
酒盃さかずきを 捧げて 獻りました。 |
爾其 百枝槻葉落 浮於大御盞。 |
ここにその 百枝槻の葉落ちて、 大御盞に浮びき。 |
然るにその 槻の大樹の葉が落ちて 酒盃に浮びました。 |
其婇 不知 落葉 浮於盞。 |
その婇 落葉の 御盞みさかづきに浮べるを 知らずて、 |
采女は 落葉が 酒盃に浮んだのを 知らないで |
猶獻 大御酒。 |
なほ大御酒 獻りけるに、 |
大御酒おおみきを 獻りましたところ、 |
天皇。 | 天皇、 | 天皇は |
看行。 其浮盞之葉。 |
その御盞に浮べる葉を 看そなはして、 |
その酒盃に浮んでいる葉を 御覽になつて、 |
打伏其婇。 | その婇を打ち伏せ、 | その采女を打ち伏せ |
以刀刺充其頸。 | 御佩刀はかしをその頸に刺し當てて、 | 御刀をその頸に刺し當てて |
將斬之時。 | 斬らむとしたまふ時に、 | お斬り遊ばそうとする時に、 |
天語①:神への陳情(みなコロコロしてます) |
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其婇 白天皇。 |
その婇 天皇に白して曰さく、 |
その采女が 天皇に申し上げますには |
曰莫殺吾身。 | 「吾が身をな殺したまひそ。 | 「わたくしをお殺しなさいますな。 |
有應白事。 | 白すべき事あり」とまをして、 | 申すべき事がございます」と言つて、 |
即歌曰。 | すなはち歌ひて曰ひしく、 | 歌いました歌、 |
麻岐牟久能 | 纏向まきむくの | 纏向まきむくの |
比志呂乃美夜波 | 日代ひしろの宮は、 | 日代ひしろの宮は |
阿佐比能 比傳流美夜 | 朝日の 日照でる宮。 | 朝日の照り渡る宮、 |
由布比能 比賀氣流美夜 | 夕日の 日陰がける宮。 | 夕日の光のさす宮、 |
多氣能泥能 泥陀流美夜 | 竹の根の 根足ねだる宮。 | 竹の根のみちている宮、 |
許能泥能 泥婆布美夜 | 木この根ねの 根蔓ねばふ宮。 | 木の根の廣がつている宮です。 |
夜本爾余志 | 八百土やほによし | 多くの土を築き堅めた宮で、 |
伊岐豆岐能美夜 | い杵築きづきの宮。 | りつぱな材木の檜ひのきの御殿です。 |
麻紀佐久 | ま木きさく | |
比能美加度 | 日の御門、 | |
爾比那閇夜爾 | 新嘗屋にひなへやに | その新酒をおあがりになる御殿に |
淤斐陀弖流 | 生ひ立だてる | 生い立つている |
毛毛陀流 都紀賀延波 | 百足だる 槻つきが枝えは、 | 一杯に繁つた槻の樹の枝は、 |
本都延波 阿米袁淤幣理 | 上ほつ枝えは 天を負おへり。 | 上の枝は天を背おつています。 |
那加都延波 阿豆麻袁淤幣理 | 中つ枝は 東あづまを負へり。 | 中の枝は東國を背おつています。 |
志豆延波 比那袁於幣理 | 下枝しづえは 鄙ひなを負へり。 | 下の枝は田舍いなかを背おつています。 |
本都延能 延能宇良婆波 | 上ほつ枝えの 枝えの末葉うらばは | その上の枝の枝先の葉は |
那加都延爾 淤知布良婆閇 | 中つ枝に 落ち觸らばへ、 | 中の枝に落ちて觸れ合い、 |
那加都延能 延能宇良婆波 | 中つ枝の 枝の末葉は | 中の枝の枝先の葉は |
斯毛都延爾 淤知布良婆閇 | 下しもつ枝に 落ち觸らばへ、 | 下の枝に落ちて觸れ合い、 |
斯豆延能 延能宇良婆波 | 下しづ枝の 枝の末葉は | 下の枝の枝先の葉は、 |
阿理岐奴能 美幣能古賀 | あり衣ぎぬの 三重の子が | 衣服を三重に著る、 その三重から來た子の |
佐佐賀世流 | 捧ささがせる | 捧げている |
美豆多麻宇岐爾 | 瑞玉盃みづたまうきに | りつぱな酒盃さかずきに |
宇岐志阿夫良 | 浮きし脂あぶら | 浮いた脂あぶらのように |
淤知那豆佐比 | 落ちなづさひ、 | 落ち漬つかつて、 |
美那許袁呂許袁呂爾 | 水みなこをろこをろに、 | 水音もころころと、 |
許斯母 | こしも | これは |
阿夜爾加志古志 | あやにかしこし。 | 誠に恐れ多いことでございます。 |
多加比加流 比能美古 | 高光る日の御子。 | 尊い日の御子樣。 |
許登能 | 事の | 事の |
加多理碁登母 | 語りごとも | 語り傳えは |
許袁婆 | こをば。 | かようでございます。 |
故獻此歌者。 | かれこの歌を獻りしかば、 | この歌を獻りましたから、 |
赦其罪也。 | その罪を赦したまひき。 | その罪をお赦しになりました。 |