原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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ツブラオミ家(目弱王子の逃げた先) |
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亦興軍。 | また軍を興して、 | また軍を起して |
圍 都夫良 意美之家。 |
都夫良意美 つぶらおみが家を 圍かくみたまひき。 |
ツブラ オホミの家を お圍みになりました。 |
爾興軍 待戰。 |
ここに軍を興して 待ち戰ひて、 |
そこで軍を起して 待ち戰つて、 |
射出之矢。 如葦來散。 |
射出づる矢 葦あしの如く來散りき。 |
射出した矢が 葦のように飛んで來ました。 |
於是 大長谷王。 |
ここに 大長谷の王、 |
ここに オホハツセの王は、 |
以矛爲杖。 | 矛を杖として、 | 矛ほこを杖として、 |
臨其内詔。 |
その内を臨みて 詔りたまはく、 |
その内をのぞいて 仰せられますには |
我所相言之 孃子者。 |
「我が語らへる 孃子は、 |
「わたしが話をした 孃子は、 |
若有此家乎。 |
もしこの家にありや」 とのりたまひき。 |
もしやこの家にいるか」 と仰せられました。 |
爾 都夫良意美。 |
ここに都夫良意美、 | そこでツブラオホミが、 |
聞此詔命。 | この詔命おほみことを聞きて、 | この仰せを聞いて、 |
自參出。 | みづからまゐ出でて、 | 自分で出て來て、 |
解所佩兵而。 | 佩ける兵つはものを解きて、 | 帶びていた武器を解いて、 |
八度拜。 | 八度拜をろがみて、 | 八度も禮拜して |
白者。 | 白しつらくは、 | 申しましたことは |
先日。 所問賜之 女子。 |
「先に 問ひたまへる 女子むすめ |
「先に お尋ねにあずかりました 女むすめの |
訶良比賣者 侍。 |
訶良から比賣は、 侍さもらはむ。 |
カラ姫は さしあげましよう。 |
亦副 五處之屯宅以獻。 |
また 五處の屯倉みやけを 副へて獻らむ |
また 五か處のお倉を つけて獻りましよう。 |
〈所謂五村屯宅者。 今葛城之五村苑人也〉 |
(いはゆる五處の屯倉は、 今の葛城の五村の苑人なり。) |
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然 其正身。 所以不參向者。 |
然れども その正身ただみ まゐ向かざる故は、 |
しかし わたくし自身の 參りませんわけは、 |
自往古至今時。 | 古むかしより今に至るまで、 | 昔から今まで、 |
聞 臣連。 隱於王宮。 |
臣連の、 王の宮に隱こもることは 聞けど、 |
臣下が 王の御殿に隱れたことは 聞きますけれども、 |
未聞 王子。 隱於臣家。 |
王子みこの 臣やつこの家に隱りませることは いまだ聞かず。 |
王子が 臣下の家にお隱れになつたことは、 まだ聞いたことがありません。 |
是以思。 | ここを以ちて思ふに、 | そこで思いますに、 |
賎奴 意富美者。 |
賤奴やつこ 意富美は、 |
わたくし オホミは、 |
雖竭力戰。 | 力をつくして戰ふとも、 | 力を盡して戰つても、 |
更無可勝。 |
更に え勝つましじ。 |
決して お勝ち申すことはできますまい。 |
然恃己。 | 然れどもおのれを恃みて、 | しかしわたくしを頼んで、 |
入坐于隨家。 | 陋いやしき家に | いやしい家に |
之王子者。 | 入りませる王子は、 | おはいりになつた王子は、 |
死而不棄。 | 命いのち死ぬとも棄てまつらじ」 | 死んでもお棄て申しません」と、 |
如此白而。 | とかく白して、 | このように申して、 |
亦取其兵。 | またその兵を取りて、 | またその武器を取つて、 |
還入以戰。 | 還り入りて戰ひき。 | 還りはいつて戰いました。 |
王子と家臣の最期 |
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爾力窮。 | ここに窮まり、 | そうして力窮まり |
矢盡。 | 矢も盡きしかば、 | 矢も盡きましたので、 |
白其王子。 | その王子に白さく、 | その王子に申しますには |
僕者手悉傷。 | 「僕は痛手負ひぬ。 | 「わたくしは負傷いたしました。 |
矢亦盡。 | 矢も盡きぬ。 | 矢も無くなりました。 |
今不得戰。 | 今はえ戰はじ。 | もう戰うことができません。 |
如何。 | 如何にせむ」とまをししかば、 | どうしましよう」と申しましたから、 |
其王子。 | その王子 | その王子が、 |
答詔。 | 答へて詔りたまはく、 | お答えになつて、 |
然者。 更無可爲。 |
「然らば 更にせむ術すべなし。 |
「それなら もう致し方がない。 |
今殺吾。 |
今は吾を殺しせよ」 とのりたまひき。 |
わたしを殺してください」 と仰せられました。 |
故以刀 刺殺其王子。 |
かれ刀もちて その王子を刺し殺せまつりて、 |
そこで刀で 王子をさし殺して、 |
乃切己頸 以死也。 |
すなはちおのが頸を切りて 死にき。 |
自分の頸を切つて 死にました。 |