原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
自此以後。 | これより後に、 | それから後に、 |
天皇。 | 天皇 | 天皇が |
坐神牀而。 | 神牀かむとこにましまして、 | 神を祭つて |
晝寢。 | 晝寢みねしたまひき。 | 晝お寢やすみになりました。 |
爾語其后。 | ここにその后に語らひて、 | ここにその皇后に物語をして |
曰。 汝有所思乎。 |
「汝いまし思ほすことありや」 とのりたまひければ、 |
「あなたは思うことがありますか」 と仰せられましたので、 |
答曰。 被天皇之 敦澤。 何有所思。 |
答へて曰さく 「天皇おほきみの 敦き澤めぐみを被かがふりて、 何か思ふことあらむ」とまをしたまひき。 |
「陛下の あついお惠みをいただきまして 何の思うことがございましよう」 とお答えなさいました。 |
寝床の下の目弱王 |
||
於是。 | ここに | ここに |
其大后先子。 | その大后の先さきの子 | その皇后樣の先の御子の |
目弱王。 | 目弱まよわの王、 | マヨワの王が |
是年七歲。 | これ年七歳になりしが、 | 今年七歳でしたが、 |
是王。 | この王、 | この王が、 |
當于其時而。 | その時に當りて、 | その時に |
遊其殿下。 | その殿の下に遊べり。 | その御殿の下で遊んでおりました。 |
爾天皇。 | ここに天皇、 | そこで天皇は、 |
不知 其少王。 遊殿下以。 |
その少わかき王みこの 殿の下に遊べることを 知らしめさずて、 |
その子が 御殿の下で遊んでいることを 御承知なさらないで、 |
詔 吾恆有所思。 |
大后に詔りたまはく、 「吾は恆に思ほすことあり。 |
皇后樣に仰せられるには 「わたしはいつも思うことがある。 |
何者。 | 何なぞといへば、 | それは何かというと、 |
汝之子目弱王。 | 汝いましの子目弱の王、 | あなたの子のマヨワの王が |
成人之時。 | 人となりたらむ時、 | 成長した時に、 |
知吾殺 其父王者。 |
吾が その父王を殺せしことを知らば、 |
わたしが その父の王を殺したことを知つたら、 |
還爲有邪心乎。 |
還りて邪きたなき心あらむか」 とのりたまひき。 |
わるい心を起すだろう」 と仰せられました。 |
目弱王による安康誅殺 |
||
於是。 | ここに | そこで |
所遊其殿下 目弱王。 |
その殿の下に遊べる 目弱の王、 |
その御殿の下で遊んでいた マヨワの王が、 |
聞取此言。 | この言みことを聞き取りて、 | このお言葉を聞き取つて、 |
便竊伺。 | すなはち竊に | ひそかに |
天皇之 御寢。 |
天皇の 御寢みねませるを 伺ひて、 |
天皇の お寢やすみになつているのを 伺つて、 |
取其傍大刀。 | その傍かたへなる大刀を取りて、 | そばにあつた大刀を取つて、 |
乃打斬。 其天皇之頸。 |
その天皇の頸を うち斬りまつりて、 |
天皇のお頸くびをお斬り申して |
逃入 都夫良意富美 之家也。 |
都夫良意富美 つぶらおほみが 家に逃れ入りましき。 |
ツブラオホミの 家に逃げてはいりました。 |