原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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是以 百官及。 |
ここを以ちて 百ももの官つかさまた、 |
そこで 官吏を始めとして |
天下人等。 | 天の下の人ども、 | 天下の人たち、 |
背輕太子而。 | みな輕の太子に背きて、 | カルの太子に背いて |
歸穴穂御子。 | 穴穗ほの御子みこに歸よりぬ。 | アナホの御子に心を寄せました。 |
爾輕太子畏而。 | ここに輕の太子畏みて、 | 依つてカルの太子が畏れて |
逃入 大前小前 宿禰大臣之家而。 |
大前おほまえ 小前をまへの 宿禰の大臣おほおみの家に 逃れ入りて、 |
大前小前 おおまえおまえの 宿禰の大臣の家へ 逃げ入つて、 |
備作兵器。 | 兵つはものを備へ作りたまひき。 | 兵器を作り備えました。 |
〈爾時所作矢者。 | (その時に作れる矢は、 | その時に作つた矢は |
銅其箭之内。 | その箭の同を銅にしたり。 | その矢の筒を銅にしました。 |
故号其矢謂 輕箭也〉 |
かれその矢を 輕箭といふ。) |
その矢を カル箭やといいます。 |
穴穂御子亦。 | 穴穗あなほの御子も | アナホの御子も |
作兵器。 | 兵つはものを作りたまひき。 | 兵器をお作りになりました。 |
〈此王子 所作之矢者。 |
(その王子の 作れる矢は、 |
その王の お作りになつた矢は |
即 今時之矢者也。 |
今時の矢なり。 | 今の矢です。 |
是謂穴穂箭也〉 | そを穴穗箭といふ。) | これをアナホ箭やといいます。 |
冒頭、百官と天下の人心が離れる記述があるが、これは女のことばかりで、まつりごとを放棄したからと見る(近親相姦の罪というのではなく)。この時代、皇族で近親婚が繰り返されている以上、兄妹だけが百官と天下の人心離れを起こす根拠には全くならない。流された兄を妹が追いかけて行き共に果てるという話を、人情としてどう思うだろうか。それに日本は有力者の男女関係は全く無視してきた伝統文化ではないか。まして軽太子は名前こそ軽いが、一応一途を通している。しかし古事記において名前はその肝心の性質を表している。