原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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如此歌參歸。 | かく歌ひまゐ來て、 | かように歌いながらやつて來て |
白之。 | 白さく、 | 申しますには、 |
我天皇之御子。 | 「我あが天皇おほきみの御子、 | 「わたしの御子樣、 |
於伊呂兄王 無及兵。 |
同母兄いろせの御子を な殺しせたまひそ。 |
そのようにお攻めなされますな。 |
若及兵者。 | もし殺せたまはば、 | もしお攻めになると |
必人咲。 | かならず人咲わらはむ。 | 人が笑うでしよう。 |
僕捕以貢進。 |
僕あれ捕へて獻らむ」 とまをしき。 |
わたくしが捕えて獻りましよう」 と申しました。 |
爾解兵退坐。 |
ここに軍を罷やめて 退そきましき。 |
そこで軍を罷やめて 去りました。 |
故大前小前宿禰。 | かれ大前小前の宿禰、 | かくて大前小前の宿禰が |
捕其輕太子。 | その輕の太子を捕へて、 | カルの太子を捕えて |
率參出以貢進。 | 率ゐてまゐ出て獻りき。 | 出て參りました。 |
天田振1 |
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其太子。 | その太子、 | その太子が |
被捕歌曰。 | 捕はれて歌よみしたまひしく、 | 捕われて歌われた歌は、 |
阿麻陀牟 | 天飛だむ | 空そら飛とぶ雁かり、 |
加流乃袁登賣 | 輕の孃子、 | そのカルのお孃さん。 |
伊多那加婆 | いた泣かば | あんまり泣くと |
比登斯理奴倍志 | 人知りぬべし。 | 人が氣づくでしよう。 |
波佐能夜麻能 | 波佐はさの山の | それでハサの山の |
波斗能 | 鳩の、 | 鳩のように |
斯多那岐爾那久 | 下泣きに泣く。 | 忍び泣きに泣いています。 |
天田振2 |
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又歌曰。 | また歌よみしたまひしく、 | また歌われた歌は、 |
阿麻陀牟 | 天飛あまだむ | 空飛ぶ雁かり、 |
加流袁登賣 | 輕孃子かるをとめ、 | そのカルのお孃さん、 |
志多多爾母 | したたにも | しつかりと |
余理泥弖登富禮 | 倚り寢ねてとほれ。 | 寄つて寢ていらつしやい |
加流袁登賣杼母 | 輕孃子ども。 | カルのお孃さん。 |
故其輕太子者。 | かれその輕の太子をば、 | かくてそのカルの太子を |
流於伊余湯也。 | 伊余いよの湯ゆに放ちまつりき。 | 伊豫いよの國の温泉に流しました。 |
天田振3 |
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亦將流之時。 | また放たえたまはむとせし時に、 | その流されようとする時に |
歌曰。 | 歌よみしたまひしく、 | 歌われた歌は、 |
阿麻登夫 | 天飛あまとぶ | 空を飛ぶ |
登理母都加比曾 | 鳥も使ぞ。 | 鳥も使です。 |
多豆賀泥能 | 鶴たづが音ねの | 鶴の聲が |
岐許延牟登岐波 | 聞えむ時は、 | 聞えるおりは、 |
和賀那斗波佐泥 | 吾わが名問はさね。 | わたしの事をお尋ねなさい。 |
此三歌者。 | この三歌は、 | この三首の歌は |
天田振也。 | 天田振あまだぶりなり。 | 天田振あまだぶりです。 |