原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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其大后 石之日賣命。 |
その大后 石いはの日賣の命、 |
皇后 石の姫の命は |
甚多嫉妬。 |
いたく嫉妬うはなりねたみ したまひき。 |
非常に嫉妬なさいました。 |
故天皇所 使之妾者。 |
かれ天皇の 使はせる妾みめたちは、 |
それで天皇の お使いになつた女たちは |
不得臨宮中。 | 宮の中をもえ臨のぞかず、 | 宮の中にも入りません。 |
言立者。 | 言立てば、 | 事が起ると |
足母 阿賀迦邇 嫉妬。 |
足も 足掻あがかに 妬みたまひき。 |
足擦あしずりして お妬みなさいました。 |
〈自母下 五字以音〉 |
石之日賣は妬に当てた人物と見る。読みは万葉で「磐姫」(2巻先頭4首の題詞)ともされイワヒメでよい。
続く黒姫も本文の描写とリンクしているので(白い大根)、イワヒメも本文の描写と無関係とは見れない(大猪子・イノシシに掛け石之日賣)。
一般にイワヒメの歌が愛情深いと形容されるが文脈を全く無視している。磐(岩)に掛け、色々重いということ(イワヒメはつきまとってくる)。
これは、恐らく当時の帝紀や旧辞の内容を元にした、安万侶のミュージカル(中国の高名な書物と比較し現存しない以上、書物としての存在が疑われるが。なお、恐らくは、安万侶のミュージカルにかかるわけではない)。よって万葉に厚く載っている。
万葉集は万侶集で人麻呂集。万侶=人麻呂(字形)。家持に蹂躙される前の16巻末尾の枕詞を駆使した長歌を歌う乞食者も人麻呂。古事記が下巻に入り、本格的な歌物語になったのは(下巻に歌の半分以上がある)、筆の調子が上がってきたからか、あるいはもっと歌を入れてという元明天皇の要望があった。
中巻のヤマトタケルの歌も、上巻のスサノオの歌も、古事記の歌は悉く人麻呂こと安万侶の作。国の神話を物語化し、そこに歌を付与した。だからこそ歌の神とされている。
他に歌の原典があったという根拠が全くないし、情況と諸記録と貫之らの別格扱いの評価を総合し、ここまでのことができるのは、諸国に通じ、歌も詠め、何より男女の愛を強く重んじた歌風の人麻呂以外ない。
安万侶が単独で執筆したのも、卑管ながら傑出した実力・芸術的文才をもった人麻呂だったからに他ならない(司馬遷同様)。それ以外の理由づけでは通らないし、そう見れば何も問題なく完璧に通る。
別格とされる人麻呂の独創性(オリジナリティ)。その集大成が古事記と万葉(1~4巻)。
国の神話は、役人達が当時の乏しい記録を考証しあって記したものより、神の称号をもつ歴代最高の歌人のセンスと世界観で作られたものの方がいいだろう。それは国の誇りですらある。それが信頼できないなら、安心して信頼できる日本書紀を参照するといいだろう。