原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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カラの船 |
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此之御世。 | この御世に、 | この御世に |
免寸河之西。 | 兔寸うき河の西の方に、 | ウキ河の西の方に |
有一高樹。 | 高樹たかきあり。 | 高い樹がありました。 |
其樹之影。 | その樹の影、 | その樹の影は、 |
當旦日者。 | 朝日に當れば、 | 朝日に當れば |
逮淡道嶋。 | 淡道あはぢ島におよび、 | 淡路島に到り、 |
當夕日者。 | 夕日に當れば、 | 夕日に當れば |
越高安山。 | 高安山を越えき。 | 河内の高安山を越えました。 |
故切是樹 以作船。 |
かれこの樹を切りて、 船に作れるに、 |
そこでこの樹を切つて 船に作りましたところ、 |
甚捷行之船也。 | いと捷とく行く船なりけり。 | 非常に早はやく行く船でした。 |
時號其船。 謂枯野。 |
時にその船に名づけて 枯野からのといふ。 |
その船の名は カラノといいました。 |
故以是船。 | かれこの船を以ちて、 | それでこの船で、 |
旦夕 酌淡道嶋之寒泉。 |
旦夕あさよひに 淡道島の寒泉しみづを酌みて、 |
朝夕に 淡路島の清水を汲んで |
獻大御水也。 | 大御水もひ獻る。 | 御料の水と致しました。 |
由良能斗能 |
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茲船破壞以 燒鹽。 |
この船の壞やぶれたるもちて、 鹽を燒き、 |
この船が壞こわれましてから、 鹽を燒き、 |
取其燒遺木。 | その燒け遺のこりの木を取りて、 | その燒け殘つた木を取つて |
作琴。 | 琴に作るに、 | 琴に作りましたところ、 |
其音響七里。 | その音七里ななさとに聞ゆ。 | その音が七郷に聞えました。 |
爾歌曰。 | ここに歌よみて曰ひしく、 | それで歌に、 |
加良怒袁 | 枯野からぬを | 船ふねのカラノで |
志本爾夜岐 | 鹽に燒き、 | 鹽を燒いて、 |
斯賀阿麻理 | 其しが餘あまり | その餘りを |
許登爾都久理 | 琴に造り、 | 琴に作つて、 |
賀岐比久夜 | 掻き彈くや | 彈きなせば、 |
由良能斗能 | 由良ゆらの門との | 鳴るユラの海峽の |
斗那賀能伊久理爾 | 門中となかの 海石いくりに | 海中の岩に |
布禮多都 | 振れ立つ | 觸れて立つている |
那豆能紀能 | 浸漬なづの木の、 | 海の木のように |
佐夜佐夜 | さやさや。 | さやさやと鳴なり響く。 |
と歌いました。 | ||
志都歌之歌返 |
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此者。 志都歌之 歌返也。 |
こは 志都歌の 歌ひ返しなり。 |
これは 靜歌しずうたの 歌うたい返かえしです。 |