原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
其將軍 山部大楯連。 |
その將軍いくさのきみ 山部やまべの大楯おほたての連むらじ、 |
その時に將軍 山部の大楯おおだてが、 |
取其女鳥王。 | その女鳥の王の、 | メトリの王の |
所纒御手之 玉釧而。 |
御手に纏まかせる 玉釧たまくしろを取りて、 |
御手に纏まいておいでになつた 玉の腕飾を取つて、 |
與己妻。 | おのが妻めに與へき。 | 自分の妻に與えました。 |
此時之後。 | この時の後、 | その後に |
將爲豐樂之時。 | 豐の樂あかりしたまはむとする時に、 | 御宴が開かれようとした時に、 |
氏氏之女等。 皆朝參。 |
氏氏の女ども みな朝參みかどまゐりす。 |
氏々の女どもが 皆朝廷に參りました。 |
爾大楯連之妻。 | ここに大楯の連が妻、 | その時大楯の妻は |
以其王之玉釧。 纒于己手 而參赴。 |
その王の玉釧を、 おのが手に纏まきて まゐ赴むけり。 |
かのメトリの王の玉の腕飾を 自分の手に纏いて 參りました。 |
於是 大后石之日賣命。 |
ここに 大后石いはの日賣の命、 |
そこで 皇后石いわの姫の命が、 |
自取 大御酒柏。 |
みづから 大御酒の栢かしはを取らして、 |
お手ずから 御酒みきの柏かしわの葉を お取りになつて、 |
賜諸氏氏之女等。 | 諸もろもろ氏氏の女どもに賜ひき。 | 氏々の女どもに與えられました。 |
爾大后。 | ここに大后、 | 皇后樣は |
見知 其玉釧。 |
その玉釧を 見知りたまひて、 |
その腕飾を 見知つておいでになつて、 |
不賜 御酒柏。 |
御酒の栢を 賜はずて、 |
大楯の妻には 御酒の柏の葉を お授けにならないで |
乃引退。 | すなはち引き退そけて、 | お引きになつて、 |
召出 其夫大楯連以。 詔之。 |
その夫 大楯の連を召し出でて、 詔りたまはく、 |
夫の 大楯を召し出して 仰せられましたことは、 |
其王等。 | 「その王たち、 | 「あのメトリの王たちは |
因无禮而 退賜。 |
禮ゐやなきに因りて 退けたまへる、 |
無禮でしたから、 お退けになつたので、 |
是者無異事耳。 | こは異けしき事無きのみ。 | 別の事ではありません。 |
夫之奴乎。 | それの奴や、 | しかるにその奴やつは |
所纒己君之 御手 玉釧。 |
おのが君の 御手に纏かせる 玉釧を、 |
自分の君の 御手に纏いておいでになつた 玉の腕飾を、 |
於膚温 剥持來。 |
膚もあたたけきに 剥ぎ持ち來て、 |
膚はだも温あたたかいうちに 剥ぎ取つて持つて來て、 |
即與己妻。 |
おのが妻に與へつること」 と詔りたまひて、 |
自分の妻に與えたのです」 と仰せられて、 |
乃給死刑也。 | 死刑ころすつみに行ひたまひき。 | 死刑に行われました。 |