原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故爾問 其大國主神。 |
かれここに その大國主の神に 問ひたまはく、 |
そこで 大國主の命に お尋ねになつたのは、 |
今汝子。 | 「今汝が子 | 「今あなたの子の |
事代主神。 | 事代主の神 | コトシロヌシの神は |
如此白訖。 | かく白しぬ。 | かように申しました。 |
亦有可白子乎。 |
また白すべき子ありや」 ととひたまひき。 |
また申すべき子がありますか」 と問われました。 |
於是亦白之。 | ここにまた白さく、 | そこで大國主の命は |
亦我子有 建御名方神。 |
「また我が子 建御名方たけみなかたの神あり。 |
「またわたくしの子に タケミナカタの神があります。 |
除此者無也。 | これを除おきては無し」と、 | これ以外にはございません」 |
如此白之間。 | かく白したまふほどに、 | と申される時に、 |
其建御名方神。 | その建御名方の神、 | タケミナカタの神が |
千引石 擎手末而來。 |
千引の石を 手末たなすゑにささげて來て、 |
大きな石を 手の上にさし上げて來て、 |
言誰來我國而。 | 「誰たそ我が國に來て、 | 「誰だ、わしの國に來て |
忍忍如此物言。 | 忍しのび忍びかく物言ふ。 | 内緒話をしているのは。 |
然欲爲力競。 | 然らば力競べせむ。 | さあ、力くらべをしよう。 |
故我先欲 取其御手。 |
かれ我あれまづ その御手を取らむ」といひき。 |
わしが先に その手を掴つかむぞ」と言いました。 |
故令取 其御手者。 |
かれその御手を取らしむれば、 | そこでその手を取らせますと、 |
即取成立氷。 | すなはち立氷たちびに取り成し、 | 立つている氷のようであり、 |
亦取成劔刄。 | また劒刃つるぎはに取り成しつ。 | 劒の刃のようでありました。 |
故爾 懼而退居。 |
かれここに 懼おそりて退そき居り。 |
そこで 恐れて退いております。 |
爾欲取 其建御名方神之手。 |
ここに その建御名方の神の手を取らむと |
今度は タケミナカタの神の手を取ろう |
乞歸而取者。 | 乞ひ歸わたして取れば、 | と言つてこれを取ると、 |
如取若葦。 | 若葦を取るがごと、 | 若いアシを掴むように |
搤㧗而 投離者。 |
つかみ批ひしぎて、 投げ離ちたまひしかば、 |
掴みひしいで、 投げうたれたので |
即逃去。 | すなはち逃げ去いにき。 | 逃げて行きました。 |
故追往而。 | かれ追ひ往きて、 | それを追つて |
迫到 科野國之 州羽海。 |
科野しなのの國の 洲羽すはの海に 迫せめ到りて、 |
信濃の國の 諏訪すわの湖みずうみに 追い攻めて、 |
將殺時。 | 殺さむとしたまふ時に、 | 殺そうとなさつた時に、 |
建御名方神白。 | 建御名方の神白さく、 | タケミナカタの神の申されますには、 |
恐。 | 「恐かしこし、 | 「恐れ多いことです。 |
莫殺我。 | 我あをな殺したまひそ。 | わたくしをお殺しなさいますな。 |
除此地者。 | この地ところを除おきては、 | この地以外には |
不行他處。 | 他あだし處ところに行かじ。 | 他の土地には參りますまい。 |
亦不違我父 大國主神之命。 |
また我が父 大國主の神の命に違はじ。 |
またわたくしの父 大國主の命の言葉に背きますまい。 |
不違 八重事代主神之言。 |
八重事代主の神の言みことに 違はじ。 |
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此葦原中國者。 | この葦原の中つ國は、 | この葦原の中心の國は |
隨 天神御子之命 獻。 |
天つ神の御子の命の まにまに獻らむ」 とまをしき。 |
天の神の御子みこの 仰せにまかせて獻上致しましよう」 と申しました。 |